話し合いによる「舞姫」の授業1:既有知識と関連づける

 話し合いによる「舞姫」の授業を3時間シリーズで行う。その第1時間目である。2クラスで実施した。場所は図書館にて。ファシリテーション・グラフィックを活用して模造紙に話し合いの経過をメモさせるため、広い机のある場所が必要なのである。
 時間は以下の3部構成で行う。

  1. ミニ・レッスン(10分間):小説の読解に役立つ方法を紹介し、若干の練習を行わせる。
  2. 話し合い(40分間):4人でグループを組ませ、「舞姫」の第1段落・第2段落について、自由にテーマを決めさせて話し合いで読解させる。
  3. 振り返り(15分間):3つのグループに話し合いの内容・結果について発表させる。

 今回の授業での肝はミニ・レッスンである。ここで小説の読解に役立つ方法を紹介し、それを活用して読解をさせるよう促している。今回のレッスンは「既有知識と関連づける」である。小説をより良く読んでいくためには小説に出て来る様々なものと自身の既有知識とを関連づけていくことが大切だ。そこで、この既有知識と関連づけることを取り立てて指導し、生徒に自覚的に行って欲しいのである。
 「舞姫」の第1・第2段落には様々な地名が出て来る。「ブリンヂイシイの港」や「スイスの山色」「イタリアの古蹟」「ベルリンの都」「ウンテルーデンーリンデン」「ブランデンブルゲル門」などなど。それらが太田豊太郎にとってどのような意味があり、それが作品の舞台をどのように整えているのかを正確に理解することが必要だ。そのためにはこれらの土地がどのような様子であり、どのような意味を持つものなのか、知識を働かせなければならない。
 そこでミニ・レッスンでは「石炭(蒸気船)」「スイスの山色・イタリアの古蹟」「ベルリンの都」「政治家・法律家」という4種類の語を用意し、それらについてイメージ・マップを描かせた。そして、次の「話し合い」では、それらのイメージを基にして作品について話し合うよう指示した。
 いやぁ、こちらの目論見が大いに当たったようである。生徒は非常に活発に話し合いを始め、自分たちでテーマを設定し、様々な角度から読解を進めていた。2つのクラスで内容の違いはあるものの、どちらも太田豊太郎の生い立ちや、彼が「まことの我」に目覚めたいきさつなどをしっかりと把握していた。このあたりは教師が念入りに教え込むところだけれど、たった1時間の話し合いで生徒はちゃんと自分たちで読み取ってくれていた。実に嬉しいことだ。
 今回は話し合いの時間をたっぷり取ったことも功を奏しているかもしれない。メンバーの組み替えはしなかった。彼らの様子を見ると、40分間では足りないくらいだったからである。実際、少し時間を延長した。これは、今後の展開が楽しみである。