三津の川を背負われて渡る相手は……

 8組と2組での授業。2組の方が若干多く残っていたのだが、8組と同じ内容で終えることができた。今日で伊勢物語「芥川」終了。
 「芥川」は後半の「はや夜も明けなむ」の箇所から。「なむ」の識別という、文法識別の三大難関の一つが出てくる。しかもこれは「なむ」の直上が下二段活用のため、未然形と連用形が同型になる、という難問パターンである。文脈判断しかない。しかし、「はや〜」に注目すればそう難しくはないが。「なむ」の識別法を一通り教え、この箇所は文脈判断しかないことを指摘した後で、生徒に考えさせる。こうした際は、すぐにキッチンタイマーで30秒や15秒を計る。その後、生徒に手を挙げさせた。どちらのクラスも半数以上が「他へのあつらえの終助詞」という正しい判断をする。ただ、助動詞の組み合わせと判断した者が10名前後、手を挙げない者が10名近くいる。おいおい、参加しようね。
 その後は順調に口語訳を続け、「白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消えなましものを」という和歌の解釈に入る。まず、和歌の解釈の仕方を教える。①句切れの有無、②倒置法の有無、③掛詞・序詞などの有無を確認した後、④和歌の中心部分を探る、を説明する。和歌の中心部分は強調部分を探すことで指摘できる。そこで、この歌の場合は何かを聞いたところ、どのクラスも「まし」と答えてくれた。そこで、「消えなましものを」が中心主題であることを指摘し、そこから訳し始める。
 それらの後、最後に用意したプリントで内容の確認をする。これは3年前に中学生体験入学の時に行った内容を元にしたもので、「芥川」の男が女を「おんぶ」していることから二人の関係を考え、そこから男の悲しみを理解させようとするものである。『授業づくりネットワーク』誌にも発表した。興味のある方はバックナンバーをご覧ください。
 「芥川」の省略部分を紹介し、そこから男が女を「おんぶ」して逃げていったことを確認する。現行教科書はこの部分を省略し、男が女を背負って逃げることはあり得ないとしておきながら、「伝俵屋宗達作」の「芥川」の絵巻をカラーで掲載している。我々が使っている第○学習社などは同様の内容の別の絵巻を載せてもいる。何故省略するのかなぁ。男女の間柄を考えさせる、良い箇所なのだが。
 そして、男が女を「おんぶ」することの意味を考えさせる。まず、二人の関係はどのようなものか想像させる。次にそうした形を別の作品で取り上げていないか思い出させる。私はこのところで『千と千尋の神隠し』を例に出す。あの映画の最終場面で、千尋が竜となったハクの背に乗って空を飛ぶシーンがある。その際、千尋がハクの本当の名前を思い出させる時、ハクは人間の姿に戻るのである。そこから、「おんぶ」する二人の間には心の交流が生まれることを指摘する。
 その後、『検定不合格国語教科書 古文』からのお経の一節を引用して示す。これは、女は初めての男に背負われて三津の川を渡ることが記されている。そこから、この男と女は夫婦の契りを結んだ深い仲だったのだ、と結論づける。
 次に「足ずり」をしている男の絵巻を示して、「足ずり」という行為が激しい悲しみの表象であることを指摘し、それらから、男が愛する女を失ってしまった深い悲しみを示す本文の箇所として再び「消えなましものを」に注目させた。
 チャイム後1分くらい授業を延ばして、どちらのクラスも何とか説明し終えた。生徒は分かってくれたかな。