『寝ながら学べる構造主義』

寝ながら学べる構造主義 (文春新書)

寝ながら学べる構造主義 (文春新書)

 夏期講習のテキストでこの本から引用された課題文があった。その際にこの本を生徒に紹介したが、私もこの本は読み続けていた。この間、ずっととぎれとぎれに読む進めていたのだが、今回のラジオ製作で順番を待っている間に読み終わってしまった。
 構造主義といえば現代思想の中核をなす考え方である。それをこれほどまでに分かりやすく親しみやすく解説した本はまずない。私も読み進めていって、その語り口にほとほと敬服した。よい教師というのは難しいことほど分かりやすく語ることができるのだが、内田樹氏はその典型である。
 さて、構造主義の前史にあたるマルクスフロイトニーチェの話から始まり、構造主義の始祖であるソシュール、そして構造主義四銃士フーコー、バルト、レヴィ=ストロースラカンの思想が順繰りに解説される。そうそうたる面々である。しかし、それらの思想が本当にわかりやすく説明されている。驚きである。
 これらを読むと、現代の評論文のほとんどがいかに構造主義の考え方に影響を受けているかが手に取るように理解できた。上記の人々の考えは、正直言って今回初めてその何たるかを知り得たけれど、しかし、それらは決して耳新しいものではない。彼らの考え方はみんなどこかで読んだものである。それは、現代文の評論文や問題文を読んでいると必ず出会ってきた考え方だ。私が読んだものはすべて日本人のものである。とすると、私が読んだ文章の著者たちはみんな構造主義の考えの上に立って自らの主張を展開していたのである。それほど構造主義というのは現代においては人口に膾炙された考え方であったのだ。
 何だか不思議な感覚であった。初めて触れる人々の思考なのに、その考え方はもうすでに十分知っている。デジャ=ヴュにも似た感覚を味わいつつ、内田先生のユーモラスな語り口に乗せられつつ、楽しんで読み終えた。