『村上春樹にご用心』

村上春樹にご用心

村上春樹にご用心

 『1Q84』を読み終えた後、村上春樹関連が読みたい! と思っていたので、折良くこの本を入手していたので、読み始めた。今日、病院の待合室で読み終えた。
 内田樹先生の面目躍如たる村上春樹論である。村上春樹論と言うよりは、村上春樹に関する内田先生の思いを縦横に述べた本、という観がある。作品論とか作家論というよりは、「村上春樹が世界文学たり得ているのは何故か」「その村上春樹を日本の批評家たちがこぞって無視するのは何故か」という2点の問題を様々に考察していて、非常に興味深い。
 内田先生によると、村上春樹の小説が世界文学たり得ているのは、村上春樹の小説がこの世界に欠如しているものを欠如していると執拗に描写しているからであり、その欠如感は世界中の人が共通して感じ取っているものだから、ということだ。そして、村上春樹を日本の批評家たちが無視するのは、日本の批評家たちが使っている物差しが村上春樹の小説には合わなくて、自らの仕事が無意味化されるから、ということのようだ。うーむ、相変わらず逆接めいた真実を語っていて、小気味よい。
 村上春樹はジャズ・バーを経営していた経験から、10人の客が来て、そのうちの1人がまた来たいと思うような店作りを心がけていたという。それは彼の小説作法にも通じるものだという。同時に内田先生も、御自身の著作に賛同してくれる人が何人かいればそれで良い、というお気持ちのようだ。だから批判は全くOK。しかし、物を書くなという脅迫には断固として肯んじない、という。これまた同感を深くするものだ。
 とすると、私も村上春樹内田樹に個人的にコミットする人間なのだなぁ、と思った。