卒業式

 ついにこの日がやってきた。第115回の卒業式である。
 自分ではそんなに気負っていないつもりだったが、やはり神経の高ぶりはあったのだね。今朝は4時頃に目が覚めてしまい、そのままなかなか眠れなかった。仕方がないので5時30頃に起きた。そして、卒業式の日程の始まるのを待った。


 生徒はいつもの通り8時40分に学校に来る。SHRである。これまたいつもの通りに遅刻するものがいた。なかなか緊張感のない彼らである。私の組の生徒で一人、大学の手続きの都合でまだ新潟に戻れない者がいた。今まさに飛行機で移動中とのこと。その到着を待ちわびながら、同窓会入会式に臨む。


 最初に同窓会入会式である。青山同窓会の入会式に、生徒たちは予定開始時間より少し早く視聴覚教室に集まった。そして整然として時間の始まるのを待っている。非常にきびきびとした動きだった。司会の声がした時にすぐにしーんと静まり、同窓会長の話も静かに話を聞いていた。式が終わり、学年主任が最後の挨拶をする。少し涙もろい方なので、話を始めるとすぐに涙声になってしまい、「ありがとう」の言葉だけで話を終えられた。しかし、かえってそれが生徒の心を打ったらしく、自然と拍手が湧き起こり、また気持ちが引き締まった。そのまま、卒業式に臨んだ。
 卒業式。何を言うべきだろう。8組の生徒たちは私の後に続いて堂々と行進してくれた。直前に、遅れていた生徒も間に合い、無事36名全員が式に臨むことができた。卒業証書授与となり、担任がそれぞれ自クラスの生徒の名前を呼ぶ。例年、この時に一部の生徒はおかしな返事をして、式の雰囲気をぶちこわしにしてくれる。しかし、我々の学年は、学年主任の涙に気持ちが引き締まったせいか、全員がしっかりとした返事をしてくれて、とても素晴らしい式となった。私も8組の生徒たちの名前を呼んだ。一人一人を、心を込めてゆっくりと、この3年間をかみしめるように呼んだ。みなしっかりと返事をしてくれた。とても誇らしい気持ちになった。すべてが終わり、退場していく3年生たち。担任たちは出口で彼らを拍手で迎える。皆、誇らしく、またもの悲しく、晴れやかに、またしめやかに。皆がいい表情だった。


 最後のLHRに臨む。副任から別れの挨拶をしてもらい、回収物を回収し、配布物を配布し、一人一人に卒業証書を手渡す。一人一人と握手をする。この時ほど「握手」の意味の大きさを実感したことはない。一人一人の手。小さな手、冷たい手、温かい手、柔らかい手、意外とごつい手。それぞれの個性そのままに、大切な一人一人だ。8組36人に向けて最後の言葉を述べようとしたが、涙が止まらずに言葉に詰まってしまった。ごめん。最後はしっかりと言葉を贈ろうと思っていたのにね。前任校でお別れの言葉を言う時も涙で十分に言えなかった。今回も、感情を抑えることができなかった。悔しい。言葉で送り出したかった。笑顔で最後は送りたかった。ごめんなさい。
 すぐその後に全員で記念撮影をする。と、生徒たちから私と副任とに花束を贈ってくれた。正直、思いがけなかった。何と心配りのできる君たちよ。ありがとう。写真撮影は楽しかった。皆でポーズを取り、全員が笑顔で写る。その後、生徒たちから個別に一緒に写真を撮ってくれたり、あるいは私が写真を撮ったりした。素敵な記念になるだろう。
 職員室に戻るが、そこにも多くの生徒が訪れてくれた。教科担当として教えていた生徒、あるいは自分のクラスの生徒、何人もが訪れてくれ、お礼を言ってくれたり、写真に一緒に写ったり、手作りのお菓子をもらったりした。最後には自分のクラスの生徒と一緒に写真に写った。何とも嬉しいことよ。何と誇らしいことよ。何と愛すべき彼らよ。


 卒業式の祝賀会に出席する。同僚たちにも祝われ、本当に嬉しかった。最後に担任団+転出した元同僚とが集まって、特に学年主任の労をねぎらう。本当に学年主任のおかげで楽しく、気持ちよく仕事ができた。
 全てが終わり家に帰ろうとすると、生徒たちに出会う。そして、私は一人バスに乗るために駅前の発着所でバスを待っていたら、やはり生徒と出会った。昨年、私が担任をしていた生徒たちだ。一人は別に帰り、一人は同じバスに乗った。その生徒は、この3年間が短かったと言った。私も同感だ。その時その時は確かに存在していたのだけれど、まるで駆け足のようだ。また、終わった気がしないとも言っていた。まだ、新潟高校の3年生のままのようだと。その通りだね。私も今日は、少しも終わったという気がしない。まだ時間は続いているように感じる。いつかこの記憶も薄れていき、私がこれまで卒業させてきた生徒たちと同様に、この3年生たちのことも思い出すことが少なくなっていくだろう。しかし今、確かにこの時は存在し、私はここにいて、あの3年生たちと出会い、3年間を共に過ごし、そして今日、卒業したのだ。同じ時間を共有する、この意味の大きさ。計り知れない経験だ。
 バスから降りる時、生徒と会釈を交わした。最後に生徒に会えた。何か、とても嬉しい。


 今日のことはあまりに思いが強すぎて、何を書きとどめてもその姿を映し出したことにはならないだろう。素晴らしい卒業式だった。そして私はいっぱい泣いた。ありがとう。ありがとう。私はこれが言いたかったのだ。