短編物語を創作させる授業

 GWが明け、いよいよ新年度の生活にも慣れてきて、これからが学びの本番である。私自身は、まだペースをつかみきれずにいるのだが、徐々に慣れていくだろう。
 さて、出講している短大の先週の授業では、学生たちが書いてきた短編物語の鑑賞会を行った。先々週はプロットづくり、あらすじ書きを行わせ、1週間のうちに作品を完成してくるようにした。A4用紙1枚程度の分量としたが、あまり分量にはこだわらないことにした。パソコンで清書し、タイトルだけをつけ、作者の名前は伏せて、作者が特定できないようにした。こうすることで、自分の作品が他者の目の前で読まれることへの抵抗感を少なくさせようという配慮だ。
 学生たちの作品を教室の前方に並べ、各自が好きな作品を持っていくようにさせた。そして、A5用紙の評価用紙に(1)作品の良かったところ、(2)作品への質問、(3)作者への励まし、を書き、3観点で評価をさせ、その用紙を作品用紙の裏面に貼り付けさせた。およそ30分くらい読ませただろうか。学生たちは次々に作品を読み進め、一人で4〜5枚の評価用紙を貼り付けていった。
 この授業へのふりかえりの一部は以下のとおりである。ビブリオバトルのことが書いてあるのは、次週の予告として私が『ギヴァー』の紹介をビブリオバトル風に示したからである。

  • みんなの作品、クオリティが高くてびっくりでした。ビブリオバトルが楽しみです! 久々に読書しようと思います。
  • みんなのお話がとてもおもしろかった。私の書いた話を皆が笑って読んでくれてよかった。次はビブリオバトルがんばりたい。
  • いろんな人の作品を読んでみて、すごく楽しかったです。それぞれが個性的で素敵な作品ばかりでした。書くのはすごく大変で難しかったけど、楽しくできたのでよかったです。
  • 物語を作るのは大変でしたが、みんなの物語は1人1人個性がある物語でおもしろかったです。感想を読んで嬉しくなりました。
  • みんなの作品はとてもおもしろくて、読むのが楽しかった。面白かったよ、と言われて嬉しかった。またやりたい!!!
  • いろんな話があってどれもすごく面白かった!! もっと読みたかった。来週も楽しみです。
  • 楽しかったです。周りの人が文章うますぎました。私も場面の描写にこだわったので、表現がかっこいいとコメントをいただき、かなり嬉しかったです。誰にも読んでもらえないかと思っていたので…。江戸川乱歩リスペクトなので、彼っぽい文章になっていたら(おこがましいですが)嬉しいです。
  • すごく楽しい小説鑑賞でした。自分も、作っているとき楽しかったし、とってもよい作品が出来ました。次回も楽しみです。
  • 作品の感想を見てみると、おもしろかったという評価があって嬉しかった。質問もあって、確かになと思った。みんなの作品も、1つ1つ違ってとてもおもしろかった。
  • 楽しかったです! 個性が出ますわ! クスッときたり、感心したり、またやりたいなと思いました。
  • みんなお話を作るのが上手だった。自分の一番伝えたかったところが私は伝えられなかったので、話の構成をもっとわかりやすくすれば良かったです。
  • 先生のビブリオバトルとても上手でした。みんなの物語がすごくおもしろかった。自分はもう物語は考えたくないけど、人の作った物語はもっと読みたい。
  • みんなの短編小説を読めて良かった。面白かったし、やっぱり女の子だなぁって思う青春ラブストーリーがあり、見ていてニヤけてしまった。またやりたい!!
  • この企画とっても楽しかったです!! 自分の作品を人に読んでもらうのは少し緊張したけど、いい経験になったと思います。みんなの発想力や文章力も参考にしていきたいと思いました。
  • 自分が書いた短編小説を人に読まれるなんて緊張した。人それぞれいろんなテーマやストーリーがあっておもしろかった。
  • いろいろな人の作品を読んでとても面白かったし、文才があってうらやましかったです。内容も一人一人個性的で学習した部分もありました(笑)。誤字があったので恥ずかしかったです(笑)。
  • 短編を考えるのが大変でした。みんな、たくさん書いていて驚きました。どの作品も面白く読めたし、イメージが出来るお話でした。しかし、鑑賞用紙を書くのが大変でした。
  • 自分の書いた作品が読まれるのは、とても緊張していたんですが、感想を見て、書いてよかったなと思いました。
  • 自分が書いた作品を誰かに読まれるのはすごく恥ずかしかったです。他の人の作品もたくさんあり、とても個性があり、おもしろかったです。もっと時間があれば、他の人の作品を読みたいと思いました。
  • タイトルもすごく大切だと思った。タイトルで興味をそそられるのがたくさんあった。みんな物語を上手くまとめていて、面白い作品ばかりだった。一人で話を考えるのってすごく難しかった。特にラストをしめるのがなかなかできなくて、悩んだところでした。
  • みんなの小説は、いろんな種類があっておもしろかったです。あと、ビブリオバトルがおもしろそうだなと思いました。好きな本やマンガがたくさんあるので、どれを紹介しようか決めるのも楽しみです。
  • 作品鑑賞会とってもおもしろかったです。またやりたいので、機会を作ってください。他の作品を読むことで、新たな発見がたくさん見つかりました。

 総じて、友人の作品を読むのは楽しかったと思う学生がほとんどであったのが嬉しかった。そして、中にはストーリーを考えるのが大変だったという者もいるが、多くの学生が次の機会を求めていることも嬉しいことである。ライティング・ワークショップを本格的に実践するのは初めてであり、正直言って、学生が乗ってきてくれるのかが心配だったが、RWと同様、やはり始めてみれば学生たちは大いに乗ってくれる。ありがたいことであり、それが物語の力でもあるのだろう。
 また、幾人かが学びについて言及しているのも注目である。「場面の描写にこだわった」「話の構成をもっとわかりやすくすればよかった」「タイトルもすごく大切だと思った」などは、私がそんなに強調して教えなかったことである。それでも学生たちは、自らの必要に迫られて、こうした学びをしている。これは、他の学生たちにも指摘して意識させたいところだ。また、今回は「優れた書き手が使う方法」をあまり紹介せずに、この創作活動に入っていった。これを紹介していれば、彼らはどうなるのだろうと興味を持った。
 もう一つ、彼らは他者から自分の作品が読まれることの喜びを多く指摘している。自分が受容されることの嬉しさと通じるところだろう。他者を受容するということは、面と向かって話をしてもなかなか難しいのではないか。しかし、こうして創作された作品を介することで、他者を受容することの大切さ、他者の視点を意識することの重要性というものも、彼らは自然と意識し、身に付けていくことができるのではないだろうか。すぐに文章力が伸びるわけではない。即効性はない。しかし、こうした経験を何度も重ねることで、総じて文章力は伸びていくだろうと、十分に実感できる結果であった。
 問題は、大学の授業では回数が少なすぎる、ということだ。週1回の授業で、たとえ90分間であるとはいえ、数回の執筆活動では本格的な文章力の育成は難しいだろう。まして、次週からはしばらくリーディング・ワークショップの内容を扱う。『ギヴァー」のブッククラブを行うのだ。書く力だけでなく、読む力や話す・聞く力を伸ばしたいと思った結果だが、欲張りすぎるかなぁ。話す・聞く・書く・読むは決して別々に取り上げて教えられるのではなく、4つが深く関連しながら教え、育てるべきものだから、大丈夫かなとは思うけれど。ともかく、回数が少なすぎる!