『こころ』読解の授業

 8組での授業。このクラスは、「私の『こころ』論」を書かせ終えており、今日から本文読解に入る。この場面では、定期考査までの残り時間が5時間しかないこともあり、私の主導でどんどん進めていくしかない。とはいえ、できるだけ最初に「謎」を示してから、それを解決するために読む、という方向で進めていく。
 最初に立てた「謎」は、「何故「私」は、Kが恋の告白をした後に、すぐに自分の思いを打ち明けなかったのか?」というものである。Kがお嬢さんへの切ない恋を打ち明けたすぐ後に自分の思いを言っていれば、この悲劇はすべて回避されたはずである。しかし、その解答は実はすぐ前に書いてある。「私」はKが「恐ろし」かったのである。では、何故Kを恐れるのか? それを探るためには、Kという人物がどういう人物なのか、Kの人物像を正確に理解しなければならない。そこで、それまでのあらすじを含んだ本文から、Kの人となりを知ることができる箇所に波線を引くよう指示した。「波線」を引くのは、「私」についての記述に棒線を引かせるためである。この小説の場合、「私」とKとは常に区別をして考えていった方が良い。そして、この小説を読解するためにはKの人物像を正確に理解することが不可欠である。
 生徒はあらすじの部分から、Kが「独力で困難に対処しようとしていた」ことを指摘した。そこを取り上げて、Kが意志の強固な、実行力のある人物であることを確認した。しかし、次の箇所はなかなか気づかないようだ。あらすじの後ろには、Kが私に対して「精神的に向上心のない者はばかだ。」と言い放ったことが記されている。ここから考えれば、Kは恋愛に対して関心のない者、恋などするはずのない者であることが読み取れる。そのKが、お嬢さんへの切ない恋を打ち明けるのである。「私」が「彼の魔法棒のために一瞬に化石されたようなもの」と語ることの重要さがこれで分かる。何故ここで「魔法棒」という言葉が使われるか? そこに「私」はKへの「不気味さ」を感じているはずである。それがKへの「恐ろしさ」へとつながる。
 何とかここまでを今日のうちに説明し終えた。残り4時間。道は遠い。