リレー物語の回覧

 一昨日、ある生徒が「先生、全員の分が読みたいです。そして、優秀作品をみんなで投票させたら良いんじゃないですか?」と私に言っていた。こういう生徒からの授業への提案は乗るに限る! ということで、昨日はリレー物語をクラス全員で鑑賞することにした。
 全員分の物語を再び最初の作者に戻し、一筆書きの要領で作品を隣の生徒に回して読むことにする。1作品につき40秒。比較的短い作品だし、十分読むことができる。さらに、生徒には赤い円形の小さなシールを2枚渡した。読んでいて「これは!」と思う作品2つに貼るように、と指示した。これで優秀作品への投票の代わりである。
 さて、そうして読み続けた作品から優秀作品を2つご紹介しよう。それぞれ生徒から多くのシールをもらったものだ。

 「時間がない!」

 夏休み寸前の7月9日。マーク模試の結果が返された。「E・・・。」
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 夏休みは18日から。よく考えてみると後9日しかない。夏休み前のこの短期間でも何かやれることはないかと考えて、アドバイスをもらうため教務室のドアを叩いた。
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 担任教師のデスクを見つけた僕は、激怒してこう言った。「こんな模試はインチキだ、この野郎! 俺はこんなレベルじゃねぇ!」
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 担任は反論して叫ぶ。「あぁ!? てめぇよく見てみやがれ! 何が『E』だ、アホ!! カタカナの『ヨ』だろーが!!」やばい……。純粋に見間違った。本当に『ヨ』だ……。てか、判定が『ヨ』って……。
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 『ヨ』…。これって何!? 担任『何がEだアホ!! ヨをとってお前みたいにガタガタぬかすヤツァ俺は初めて見たぜオイ。』何言ってんだよコイツら。俺がどうかしちまったのか? 暑さでどうかしちまったのか…? いったい全体どうなってんだ…? 俺は走り出した。
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 こんな夢をどのくらいの間見ていたのだろうか。目覚めるとすでに9時。「もう学校へ行く時間だ。」何か懐かしい夢を見ていたなあ、と思いながら大学へのいつもの道を汗をかきながら走り抜けていくのだった。

 「梅雨の日」

 朝から大雨だった。いつも通り電車を降りると、傘を忘れたことに気づいた。授業が始まるまであと15分。
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 ベンチの下にビニール傘が落ちているのを発見。さびついているが何とか使えるか。あと12分。
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 その傘を開いてみるとたくさん穴が空いていて、使い物になりそうになかった。雨はさらに強くなっている。あと8分。
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 その傘を元の場所に置き、次をあたった。次のベンチに行くと子どもの名前の書いてある傘がおいてあった。これはとれない。…でも。となりには食べかけのコンニャクがあった。私はピンと来た。あと6分。
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 最初のベンチの戻り、穴だらけの傘を開いて、その穴一つ一つにコンニャクをチネッて詰め込んだ。大丈夫だろうか。あと2分。
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 そして猛ダッシュで学校へ。途中で穴に詰め込んだコンニャクが落ちた気がするけど気にしない。あと1分の所で教室に入ったが、今日の土曜講習は休校でしたとさ。(お決まりパターン)

 最初の作品は、私の生徒との様子が暴露されてしまった文章でしょ(まさかね)。(^_^) また、次の作品は「あと○分」と次々につなげていったのが臨場感を醸し出している。
 それにしても、大したストーリーテリング能力である。これをやるのに30分強の時間しか使っていない。その間に彼らは自由に想像力の羽を広げて、様々な文章を創作してくれた。
 私も、たまたま欠席した生徒になりかわって、この鑑賞の輪の中に入っていた。そして私もシールを2枚持ち、良いと思われるものにシールを貼った。全員の分を私も読んだのだが、非常に楽しかった。シール2枚ではとうてい足りないほど、素晴らしい作品がいくつもあった。
 いやぁ楽しかったね。またやろうね。