『新・コンピュータと教育』

新・コンピュータと教育 (岩波新書)

新・コンピュータと教育 (岩波新書)

一昨日に続く、佐伯胖氏の著作である。前著は人類のシンボル使用を中心テーマとして考察しているのに対して、この本は人類の道具使用を中心テーマに置いて考察している。そして、道具としてのコンピュータ、インターネットのあり方について進むべき方向を示している。
2作とも、大変に優れた指摘であり、情報教育がまさにこの方向に向けて進展していっているのに気づく。日本の情報教育が、決してコンピュータ利用教育としての方向だけで進んでいっていないのは、このような議論が踏まえられてきたからなのだと分かる。

 類推(アナロジー)や比喩(メタファ)で考えるということも、ここでいう「モデル化」による思考支援であると見ることもできる。そうだとすれば、「意味のモデル化」というのは、自然科学、社会科学、人文科学、さらには芸術にも、あらゆる人間の文化的な営みに共通して見られる「理解支援方略」だということもできるだろう。
 このような、「モデル化による思考」は、コンピュータ・グラフィックスなどの電子メディアによって大いに支援されてきているし、今後ますます発展すると考えられる。
 このような「意味のモデル化」も、「頭の中の世界」を「外から見える形にする」という点で、先の「推敲」と同様、「思考の外化」であるといえる。ただ、モデル化が「推敲」と異なるのは、最終的な産物(プロダクト)が吟味して精錬された「外からの見える形」そのもの(推敲の場合は「作品」、モデル化の場合は整合的モデルそのもの)ではなく、表現された形態はあくまで手段であり、それを用いて解明されるべき意味世界こそが産物になる、ということである。
 また、モデル化の場合は、習熟して行くとそろばんのようにモデル自体が「頭の中に入って」、いちいち外的に表現しないでも「頭の中」で構築し操作することができるようになるという点で、思考の「内化」のための道具づくりだという見方もできる。ただし、先にベン図で描けない命題があったように、特定のモデルに「はまって」しまうと、結果的には思考を固定化し、新しい発想が生まれなくなる。つねに多様なモデル化の可能性をさぐって行かなければならない。(p119~120)