「こころ」の授業

 3組と4組での授業。それぞれ試験範囲である、「私」が奥さんに「お嬢さんをください、ぜひください」と申し込む場面まで読み進める。3組の場合は余裕があるので、その先のKに対する良心が復活する場面まで説明する。良心の呵責と利己心の間に挟まれてどうにも動けなくなる「私」の心情を、漱石は心憎いばかりに描写する。さすがに文豪と言われるだけはある。非常に説得力のある場面である。
 そしてその心情は、まさに細部にこそ宿る。「私」がお嬢さんとの婚約成立を想像しながら町の中を歩き回った後、帰宅すると「例のごとく」Kの部屋を通ろうとする。その時Kは「いつものように」書見をしており、「いつものように」目を上げて「私」を見る。しかし、「いつものように」今帰ったのかとは聞かず、「病気はもういいのか、医者にでも行ったのか」と聞く。この「いつものように」の繰り返しが「私」の良心を復活させるのである。非常に説得力ある描写だ。そんなところを生徒と一緒に味わいながら読み進める。教師という仕事は思えば楽しいものである。