「舞姫」の授業:第3段落の読み取り

 現代文は文系2クラスの授業があった。1つは第3段落の読み取り、つまり豊太郎がエリスと出会う場面である。もう1つは第2段落の読み取りがまだ少し残っていた。先のクラスの半分程度しか第3段落は進まなかった。
 第3段落において私が設定した質問は次の3つ。全部で4つあるのだが、今日扱えたのはそのうちの初め3つである。

1.豊太郎がクロステル巷の古寺の前に、自分の帰宅路を大きく迂回して、何度も訪れていたのは何故か?
2.豊太郎がエリスに多額のお金を、しかも無償で与えたのは何故か?
3.豊太郎がエリスと「離れ難き仲」になってしまったのは何故か?

 1はもちろん、前田愛などが指摘した古ベルリンと新ベルリンの空間装置の意味合いについてである。これは生徒に自分で考えさせるのは無理だと判断し、ほとんどを私が説明した。ただ、教科書にはベルリン市街図が載っているので、生徒に豊太郎の足取りを辿らせ、彼が大きく迂回していることを確認させ、その不思議さについて共有するようにした。
 2はエリスの美しさ・処女性とエリスの部屋のエロス性・タナトス性との対照を理解させ、豊太郎が判断停止の状態に追い込まれ、感情的・状況的に行動していることを理解させる目的である。そのため、まずはエリスがどのような少女であるかを確認するため、エリスの人となりについて分かる箇所を指摘させた。それらからエリスが清純可憐な美少女であること、その処女性が強調されていることをまとめた。次にエリスの部屋の特殊性について理解させる。そのために次のスモール・ステップの質問をした。

  • エリスが帰宅した時、エリスの母は「戸を荒ららかに引き開け」たのは何故か? 何故、母は怒っているのか?
  • エリスの母が慇懃に豊太郎を迎え入れたのは何故か?

 これらの質問を通して、エリスの母がシャウムベルヒの言うとおりにするようエリスに強要していたことを説明し、さらに豊太郎をエリスの客として迎え入れたことを説明した。そして、このエリスの部屋がエロスに満ち、さらに隣室の父の遺体が存在することから、タナトスの雰囲気を併せ持つ、異常な空間であったことを説明する。その上で、エリスの処女性が全く余裕のない危機に陥っていることを理解させ、その場に立たせられて強要されている「善き人」である豊太郎にとってはエリスの願いを聞き入れる以外に道はないことを説明した。
 いやはや、なかなかスリリングな時間だった。説明を重ねているうちに、生徒のある者は「ああ」といった、分かったというような顔をしていた。多くはその意外な結末にあっけにとられていたようだったけれどね。しかし、小説は明らかにそのように書かれている。他の可能性はないと思う。これを読み解くのが小説読解の醍醐味である。
 しかし、この質問に対する説明で時間を費やし、3番目の質問は途中で終わってしまった。もう1つのクラスは、さらに悪いことに、2番目の質問の説明の途中で時間切れとなった。明日が思いやられるな。

1Q84』読了

1Q84〈BOOK3〉10月‐12月〈後編〉 (新潮文庫)

1Q84〈BOOK3〉10月‐12月〈後編〉 (新潮文庫)

 文庫版の『1Q84』をとうとう読み終えてしまった。今回は2回目ということもあり、じっくりと読むことができた。そして、その謎についていろいろ考えながら読めた。非常に面白かった。
 『海辺のカフカ』も読み直そうかな。