『ツバサ』という物語を一文で表すと……

 物語の読解方法の一つに、その物語を一文で言い表す、というのがある。「○○が……する物語」とか「○○が……になる物語」という一文で言い表すのだ。これをすると、物語の全体をとらえるだけでなく、物語の主題を自分なりに捉えるよい訓練になる。
 そこで、『ツバサ』を一文で表現してみるならば、それは「さくらが小狼に愛を告白する物語」となるだろう。より正確に言うならば、「小狼への愛を告白しようとしていたのに、以前の記憶を失ってしまったさくらが、様々な紆余曲折を経て、小狼に愛を告白する物語」である。
 周知の通り、『ツバサ』は冒頭でさくらが小狼に愛を告白しようとして空振りに終わるところから始まる。そして、さくらは「次に会った時に、今言おうとしたことを必ず言うから」と告げて小狼と別れる。しかし、その次に彼らが会った時に、さくらは記憶を失ってしまうのだ。この冒頭場面から、読者は容易に、最終場面においてこのさくらの約束が実現するのだろう、と予想できる。
 しかし、その後の展開はもうこちらの予想を遙かに超えるものだった。だいたい、途中で主人公が入れ替わるなんて、しかも、彼らが本体を写した写し身だったなんて、当初のパラレル・ワールド探訪記的なストーリー展開からはどうやって想像することができようか。そういう予想外の展開の連続が『ツバサ』という物語の真骨頂である。
 そして、その物語の最終場面において、それでもやはり当初の想像通り、さくらは小狼に愛を告白する。このまとめ方はなかなか憎いところである。
 ふと思いついたが、小狼やさくらの同じ存在である『カードキャブターさくら』という物語も、「さくらが小狼に愛を告白する物語」であった。その意味では、二つの作品はやはり通底するものがあると言えるだろう。