山月記の授業

 4組での授業。第5段落での李徴の悲しみと孤独の部分を読み解かせ、続いて第6段落へ。ここは李徴が妻子の世話を頼む場面である。
 李徴が袁傪に対して、「君が南から戻ったら自分は死んだと伝えて欲しい。決して今日のことは明かさないで欲しい。」と頼む部分がある。ここで李徴は何故、妻子に虎になったことを知らせないでくれと言ったのか、毎回とても面白い箇所である。3人の生徒に指名して聞いてみた。

  • 李徴が虎になってしまったことを知ったら妻子が悲しむから。
  • 自分の内心が外形化した姿が虎であったことを知られるのが恥ずかしいから。
  • 虎になっていると知って会いに来た妻子を、虎の心のままの自分が襲ってしまうかも知れないから。

 どれも良い答えだ。これらが生徒から出てきたのは素晴らしい。彼らが第5段落の内容を十分に理解していることの証拠である。
 2番目の解釈は私が初めて聞いたものだ。なるほどねと思う。内心が虎であったことを知られるのは恥ずかしいよねぇ。鋭い読みだ。ただ、それならば相手は妻子でなくても良い、とは思うけれどね。
 3番目の解釈は私が準備していたものと同じである。そうなのですね。そしてそれがどんなにか悲しいことか。妻子に対する愛情故の発言が、逆に妻子との永遠の別れを引き起こすのだ。
 うーん、山月記は面白い。そして、生徒の解釈を教室で聞くことができるのはとても楽しい。お互いに目が開かれる思いがする。こうした解釈の応酬が小説の授業にもっと起こればいいのに、と思う。