授業公開実施

 本校は授業改善の一環から、教員に公開授業を行うことを求めている。私は、過去3年間で2回授業公開を行った。昨年は3年担当で、公開のタイミングを探っているうちに演習に入ってしまったのでできなかった。今年は何とか早くにと思い、今年度のトップバッターとなる授業公開を行った。
 対象は現代文、7組の羅生門の授業の最後である。下人が老婆の話を聞きながら「ある勇気」を抱き、老婆の着物を奪って逃げてしまう場面だ。いろいろに仕掛けが考えられる箇所なのだが、今回は「ある勇気」の内容から、下人の勇気が変容したことを確認させた。そして、その変容が起こった原因について探る、という展開を考えた。
 「ある勇気」の、変化前と変化後の内容について生徒に考えさせ、指名して板書させる。対照性が明らかになるようにとの指示を出したので、生徒には前と後の2つとも書かせる。まあまあよい解答が得られたので、それをまとめてからその原因について考えを深めさせた。
 まず老婆が「迷いのない存在」から「強者」であることを確認し、下人が「にきびから手を離した」意味を考え、さらに下人が老婆の着物を奪っただけで髪の毛を盗らなかった理由を考えさせる。ここで下人が決断者となったことを理解させたかったのだ。しかし生徒の解答は、老婆に対する憐れみ・同情という考えが出た。うーん、まだまだ本文の表現・流れに沿った読み取りができないのだなぁ。どうしても本文から離れて、有り得る解答に走りがちである。そこで、「夜の底」やら「黒洞々たる夜」という表現から、下人の行った先が暗黒であることから、この時の下人には同情心は持ち得ないことを説明した。うーん、少々強引だったかな。本当は「黒洞々たる夜」という表現には、決断者の向かう自由さを読み取らせたかったのだが、この流れでは無理だ。当初の予定を変更して、この読みへとつなげる事を放棄した。
 その代わり、「羅生門」の主題を考えさせる課題で何とか立ち直ることができた。この物語は「下人が○○する・なる物語」という形になるようまとめさせる課題である。「盗人になる物語」「悪になる物語」など挙がったが、「下人が青年から大人に成長する物語」と答えた者がいた。主題の捕らえは様々でOKであり、一つにまとめる必要はない。ただ、私はこの物語を「優柔不断な青年であった下人が、老婆との出会いを通して、決断者となる物語」ととらえている。今日の授業は、その解釈が有り得ることを説明するためのものでもあった。その解釈が、生徒の中から出て来てくれて、正直ほっとした。そこで、同じように「優柔不断な少年・少女が、ある出会い・経験を通して成長する物語」として他に何があるか質問した。生徒からは「スターウォーズ」のオビワンの物語が挙がった。なるほどね。私はエピソード1〜3を観ていないのでよく分からないが、なるほどと思った。私の方からは「千と千尋の神隠し」や「ヴレイヴ・ストーリー」を紹介した。生徒の方が「なるほど」と言ってくれた。
 これで、およそ10回にわたる授業をかけた「羅生門」の授業は一応終わった。明日は、この「羅生門」の続編を創作するという課題を与えようと思う。せっかく芥川が下人のその後を読者の想像に任せてくれたのだから、大いに想像しようではないか、というわけである。同時に、現代文の読解は、その文章についての創作をすることによって完結すると考えている。PISA型読解力の養成にも当てはまることだろう。