『幼児期』

幼児期―子どもは世界をどうつかむか (岩波新書 新赤版 949)

幼児期―子どもは世界をどうつかむか (岩波新書 新赤版 949)

 まさに幼児期の息子を持つ身として、彼の中で起こっていることを理解するべく、読んだ。これはよい。「幼児期」というものがいかに豊かな世界であるかがわかる。
 筆者は、今日の幼児を取り巻く環境を深く憂えている。そして、早期教育や情報社会における幼児の取り扱われ方に対して危機感を持っている。幼児期がいかに幼児本人にとってどんなに大切なものか、切々と訴えてくる。
 「しつけ」「遊び」「表現」「ことば」の4分野にわたって、幼児の中でどんなことが起こっているのか、それに対して保護者や保育者はどんなことができるのかを示している。
 思わせられたのは、大切な他者としての保護者及び保育者の重要性である。幼児は自分にとって関わりの深い人を大切な他者と認識し、その人との関わりに深く影響される。大切さといっても、普通の愛情を注げばよいのだろうが、昨今はその普通の愛情すら得ることのできない環境にある幼児の話が散見される。そうした幼児の危うさを思わせられた。
 筆者の語り口は大変柔らかで親しみやすい。ちょっと冗長な気がするとともに、現在の危機を訴えるのに性急なあまり、具体的な解決に向けての提言は少ないように思った。このあたりは、2005年に出版されたことの限界なのだろう。今、この時の、最先端に知見が知りたいものだ。