「ツバサ:春雷記 後編」

DVD付初回限定版「ツバサ」27巻 ([特装版コミック])

DVD付初回限定版「ツバサ」27巻 ([特装版コミック])

 最新刊の27巻限定版に付いているDVDを観た。前回の26巻に付いていたものの後編である。
 場面としては単行本の23巻の内容に当たる。写し身さくらの魂が写し身小狼に刺されて消滅する場面である。DVDのこの場面はなかなか秀逸だった。さくらの切なさがその表情や声によく表れていた。特に、さくらが「あなたが、す……」と言いかけた後に消滅するのだが、原作ではセリフの場面から消滅の場面へは紙1枚めくるようになっていて、何となく時間を感じる。しかし、DVDでは「あなたが、す」と言った直後に消滅する。現象としてはこれがありうる形のわけで、原作とは少しイメージが違うが、ありだな、と思った。こういう、原作とは違うがあり得るもう一つの形を提示してくれるのならば、メディアを変えた同じ作品の存在価値もあると思う。
 惜しむらくは、最後の方に出てくる黒鋼と知世との交流の場面である。原作ではしっとりとした二人の語らいがもっと続くのだが、DVDでは時間の都合からか短く編集されていた。黒鋼が知世のいることを察知したすぐ後で、知世は黒鋼の「銀竜」を渡してしまう。これはいかがなものかなぁ。黒鋼と知世というのは主従でありながら恋人同士、姉弟、親子、友人、等々を全て含んだ関係である。これは原作通り時間をかけてしっとりと描いて欲しかった。まあ、このDVDの主眼が写し身さくらを挟んで、写し身小狼と真小狼とが戦うというものだから、仕方がないことではあるが。
 こう考えると、ファイの相手はアシュラ王だったんだなぁ、と気づいた。ファイは最も大切な相手を殺さなければならないという運命から逃れるために、自分の故郷のセレス国には戻らない旅に出たのだなぁ、ということだ。彼の置かれた運命の過酷さはなかなかのものである。
 今、原作では写し身たちの運命が大きく動こうとしている。その後で「Holic」とのリンクも回収しなければならないし、もうすぐ終わりそうな「ツバサ」であるが、もう少し続いて欲しいものだ。