「夜の寝覚」を読む

 今日の授業で扱った問題は古文である。文章は「夜の寝覚」からのものだ。主人公の女君が、生き霊となって男君の正妻に祟っているという噂が立って思い悩んでいるところに、女君に思いを寄せていた当の男君が訪ねてくる、という場面である。生き霊が出てくるとは、本当に『源氏物語』の影響を受けているんだなぁ。「夜の寝覚」は「源氏物語」の単なる亜流ではないが、それでも源氏の影響からは逃れられない。それほどに源氏物語とは影響力の大きい作品であり、完成度の高いものだったのだろう。
 しかし、扱った文章は女君が今の自分の状況を嘆き、亡くなった夫の関白との生活を懐かしんで、その夫を思って琴を弾く。その時に男君が現れ、自分ではなく夫のことを恋い慕っている女君を責める、という展開だ。そこに、「五月待つ花橘の香をかげば」という古歌を思い出すべき描写があったり、「想夫恋」を弾いていることから女君が亡き夫を懐かしんでいることを推測させたり、いやはや難易度は高い。様々の描写やアイテムから文章を理解していかなければならないのだ。よくもまあ、こんな箇所を見つけたものだ。
 とはいえ、古文を読み解くのは、ある意味で評論より明快かもしれない。何しろ、とにかく直訳してみればよいのだからね。評論の場合は広い箇所から内容を確実に読み取らなければならない。その分、古文の場合は比較的狭い範囲をじっくり読み解けばよい。まだ易しいのではないかな。
 そこで、作成したプリントは、読解を進める上で自分で考えられるように穴埋め式にし、生徒に空欄を埋めさせながら解説することにした。これはよい方法かもしれない。単に私の解説を聞くだけではなく、また臨席同士で解答を確認するだけでもなく、解釈を少しずつ進めながら本文を、そして問題を理解するために、空欄を補充させながら解説を聞く、というのは有効かもしれない。明日は漢文の問題を解くのだが、これも空欄補充を思いっきり取り入れたプリントとした。さて、生徒の反応はいかに?
 今日はセンター試験の予備校による成績分析が発表される日である。同僚たちがその発表を聞きに出かけていった。平均点の中間発表もあった。予想通り、国語の平均点は100点を割り込み、過去最低だという。朝日新聞ではこのことについて結構な分量の解説記事を載せていた。「様々な種類の文章に読み慣れるべきだ、という出題側の意図の表れか」とまとめていた。そりゃ大賛成の見解なのだけれど、それを80分という制限時間の中で読み解き、設問に答えるという状況下で要求するか、という問題は残ると思う。通常の状況では、むろん様々なタイプの文章を読み解く経験を積むべきである。しかし、速読を要求する場面でそれは酷だろう、と思う。やはり、今年はあまり良い問題ではなかった、と思う。平均点を下げる、という至上命題を実現するための作題だったのだろうと推測するけれどね。