「舞姫」の授業:私の「舞姫」論の執筆

 3回の話し合いの授業を終え、今日はそれらの話し合いの集大成である「私の『舞姫』論」を執筆させる。
 この論を書かせるに当たってのフォーマットをどうするか、もうさんざん迷った。どのようにしたら彼らの思いを存分に表現させることができるか、そしてそれを私が汲み取りやすくするにはどうしたらよいか、そして、彼らがどんな読解方略を使っているかをどうやって判断しやすくするか、それらの要求をクリアできるフォーマットを求め続けていた。その解答は「何もしない」ということだった。特別なフォーマットもいくつか作ったのだが(印刷さえしたが)、結局何もせずに、ただB4用紙を上下に分けて、そこに罫線を引いただけのフォーマットにした。テーマも設けなかった。3回の話し合いで特に関心を持ったこと、印象に残ったこと、自分で論じたい、考えたいと思ったことを何でも書くようにした。これはライティング・ワークショップの考え方を踏襲したつもりである。生徒に決定権を委ねること、生徒を信頼して彼らの能力を存分に発揮させること、それを求めた。テーマについて自由に書くように伝えた時、昨年度にアメリカに留学していた生徒が「やった!」というようなそぶりをしたのが印象的であった。ただし、それでは途方に暮れてしまう生徒もいるだろうと思い、別に構想メモのプリントを配った。A4用紙を上下に区切り、上は何もないフリーの構想スペースとし、下は構想を促すために作ったフォーマットの一つを載せた。これを、どちらを選んでも良いから自由に使うようにと指示した。見回りながら生徒の使用状況を確認していったところ、全くフリーの方を使う生徒と私の用意したフォーマットの方を使う生徒とだいたい半々くらいだったかな。
 最初に15分間をかけて自由に構想メモを作らせた。その後10分間くらい、話し合いをしたグループ内で自分の選んだテーマについて紹介し合うようにした。連続して60分間書かせるのも良いが、それでは苦しむ生徒も出て来るだろう。それよりも、自分たちが書いている内容について一度話をさせた方がよいと考えたからだ。生徒たちは活発に話をしていたが、10分間まるまる使うグループは少なかった。そこで、記入用紙を早めに配って、執筆に取りかかる者は取りかかるよう指示した。
 そこから約30分間、生徒たちは集中して執筆活動に取り組んでくれた。中にはまだ構想メモから離れることのできない生徒もいた。そうした生徒と少し話をして、書くための考えの確認や書き始めるためのヒントなどを伝えた。面白そうなテーマに取り組んでいる者には励ました。一種の「カンファランス」である。今回の話し合いで私が成長したと思えることは、このカンファランスを少しでも取り組むことができたということだ。今まではなかなか執筆している生徒や話し合いをしているグループに入っていって、アドバイスをしたりすることが苦手だった。だが、今回はこれまでよりもかなり積極的に関わっていった。何故なら、何しろ彼らの話し合いを一緒に聴いているのが楽しいからだ。決して私の考えの方向に導こうとするのではなく、単に彼らの考えを聞いていた。それが楽しかった。その楽しみを共有したかっただけだ。だが、カンファランスとはおそらくそういうものだろう。
 今日中に書き終えた生徒は4名ほど。B4用紙上下いっぱいに書いてきてくれた。他の生徒はどうだろう。成果が非常に楽しみである。