全国大学国語教育学会@筑波大学

 今日は日曜日だが、私は全国大学国語教育学会に参加してきた。この学会で発表するためである。会場は筑波大学だったが、緑の多い、広々とした素敵なキャンパスだった。
 午前中は課題研究発表ということで、「国語教育研究手法の開発(1) ー発達心理学研究との交流を通してー」と題して、発達心理学と国語教育との関連についての発表があった。内田伸子先生と無藤隆先生が招かれ、発達心理学の立場から国語教育学への提言がなされた。国語教育からは小川雅子先生が、やはり国語教育の中でも心理学的な立場を踏まえての報告がなされた。期待していたものだったが、その期待に充分以上に答えてくれる、非常に参考になったものだった。私自身の研究も認知心理学をベースにしたものである。読解方略は心理学の分野のものだ。そうした意味で、自分自身が研究を進めていく上での方法論的な関連や参考になるものが多く、とても有意義であった。
 午後からいよいよ自由研究発表である。私は第4会場の2番手として発表した。私の発表テーマは「小集団討議の活性化が読むことの学習に及ぼす効果 ーファシリテーション・グラフィックを活用した『こころ』の授業実践を中心にー」というものである。昨年行った「こころ」の授業において、ファシリテーション・グラフィックを活用した小集団討議を行うことによって、生徒の読解方略がどのように伸長したかを調査したものである。私の発表の主旨としては、小集団討議を活性化することによって読解方略がより効果的に伸長できた、ということであった。
 当日発表資料を用意し、それをほぼ読み上げる形で発表した。20分間が与えられていたが、若干超過して発表を終えた。その後の質疑が非常に有意義だった。やはり学会発表はするものである。おかげで私が今後考えていくべき点がいくつも見えてきた。質問された内容はだいたい以下の通りである。

  1. ファシリテーション・グラフィックによって小集団討議は活性化したというが、他の要因も関わっていたのではないか。設けた討議のテーマや「討議→取材→再討議」という討議自体の進め方なども活性化につながっていたのではないか。
  2. ファシリテーション・グラフィックはそもそもが合意形成のためのものである。評論などを読み取らせる際にはよいが、小説のように想像力を膨らませるものを題材にして、ファシリテーション・グラフィックは効果があるのか。
  3. 「討議→取材→再討議」という討議の進め方はワールドカフェのものであるが、それは何のために導入したのか。
  4. ファシリテーション・グラフィックでは話し合いの過程が重要である。よって、話し合いの過程全てを見せる必要がある。模造紙1枚だけでなく、数枚使わせて、その全てを見るべきではないか。
  5. 小集団討議の授業の後に教師主導の従来型授業を行ったのは効果が薄いのではないか。小集団討議の授業のまま終われば良かったのではないか。
  6. 生徒が伸長することのできた方略を活用することについて、どう考えるか。

 最初の質問は、ファシリテーション・グラフィックという手法の効果のみが強調されて、授業の他の様々な要素が絡み合っていることが見過ごされてしまう危険性があることを指摘してくださったものだ。なるほど、まさにその通りである。今回の発表はファシリテーション・グラフィックという手法の効果のみを報告したものではないが、そうした手法頼みの点は私の中にある。反省させられた。
 2〜4番目の質問は、ファシリテーション・グラフィックを研究対象として扱うことの難しさを再認識させられた。私も当初、生徒の描いた模造紙の内容自体を分析しようと考えていたが、あまりの難しさのゆえに断念した。しかし、本当はそこに生徒同士の話し合いそのものが(全てではないが)映し出されているはずである。今後考えていこう。
 5番目の質問は、全くその通り。そして、もしも定期試験対策であるのならば、定期試験の内容自体を討議内容と関わりのあるものにすればよい、という意見も全くその通り。だが、現実的にはそれはかなり難しい。これを行うためには、学年を担当する全ての教員が同じ小集団討議の授業をしなければならないし、また問題作成も従来とは違うものになるし、採点方法もなかなか難しい。現場の教師である私としては、ご意見の通りが正しいとは思うものの、そうはいかないとしか言えない。
 6番目の質問は非常に参考になった。質疑時間が時間切れで議論することができず、残念である。このことをこそ、私は今後考えていかなければならないことだろう。伸長させることのできた方略をいかに活用させるか、それこそが「自立した読者」として生徒を成長させることだろう。
 私の発表の後は、会場を移って広島大学山元隆春先生の発表を聴いた。上記の6番目の課題に対する大変有意義なヒントをいただけるものだった。先生の発表に対し質問することもでき、また終了後に挨拶することもできた。
 今回の学会は本当に得るものの多いものだった。苦労した甲斐があった。
 その行き帰りの新幹線の中で読み終えたのがこの本である。

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

 久しぶりに読み返したものだった。しかし、ぐいぐいと作品世界に引き込まれていく。相変わらず面白い。いろいろなことを考えさせてくれる。