『小説・秒速5センチメートル』

小説・秒速5センチメートル (ダ・ヴィンチブックス)

小説・秒速5センチメートル (ダ・ヴィンチブックス)

 この本は映画「秒速5センチメートル」の原作者であり監督の新海誠氏自身が小説化したものである。したがって、映画の内容を補完するものでもあるし、小説を読むことで映画がより深く理解できる。
 しかし、切ない作品だなぁ。でも、映画のあの切なさに比べて、小説のラストはまだ救いがありそうだ。明里と貴樹がついに相手に渡せなかったラブレターの内容が最後に示されている。それを読むと、彼らがやはりお互いを心から愛し、支え合っていたことに気づく。それが15年前であったとしても、その思いの確かさは変わることはない。
 そうだとすると、あのラストシーンの踏切での擦れ違いは別の意味を持ってくる。これでようやく、再び前を向いた貴樹のあのほほえみの意味が分かる。
 映画を観た人は、ぜひこの小説を読むべきである。監督の意図がようやく分かってくる。まだ謎は残ってはいるが(例えば、明里と貴樹は何故文通をやめてしまったのか、など……)。