『獣の奏者・外伝 刹那』

獣の奏者 外伝 刹那

獣の奏者 外伝 刹那

 もう、懇意にしている出入りの書店の方がこの本を持ってきてくれた時は幸せでたまらなかった。私はこの本が出ていることを知らなかったのだ。『獣の奏者4 完結編』の後書きでこうした「外伝」が出ることは知っていた。しかし、それがこの時期に出版されているとは知らなかった。だから、書店の方が持ってきてくれた時はもう嬉しくてならなかった。本当に書店とは懇意にしておくものである。
 さて、家人の者も読みたいというので、まずは私が早く読み終えなければと、他の読むべき本を後回しにして読み始めた。いやぁ、素晴らしい。今日読み終えて、まだその余韻に浸っている。聖書のお話の準備をしなければならないのにね。
 本編ほどのスケールの大きい世界観はないが、それでもエリンとイアルの恋やエサルの秘めた恋など、読み応えのある物語が、でも単純に恋物語だけではなく、親子の情愛、イアルという特殊な立場にある者の葛藤、エサルが経験してきた学びの場と師との交わり、そして彼女の身分のしがらみへの切ない思いなど、様々なことが重層的に重なり、物語の奥行きを何重にも深めている。いやはや、面白い。その存在感の確かさに舌を巻くばかりだ。
 逆に言えば、その存在感の確かさがリアルであればあるほど、物語世界においてエリンとイアルがすでに亡くなっていることが切なく哀しく感じられる。それはあんまりだと、作者に文句を言いたくなる。そこまで物語世界に入り込んでいる自分に驚くばかりである。
 ともあれ、面白かった! 家人に回す前に、もう一度読もうかな?