特編B2日目

 今日は小説の問題を扱う。広島大学の問題で、佐藤春夫の「蝗の大旅行」という、エッセイ風の小説である。
 この問題も、傍線部分をどうとらえるかという問題を考えなければならない設問がある。「本当の童話」という箇所について、それはどういう意味かと聞く設問があるのだ。この「本当の」という言葉には「true=真の」という意味と「real=現実の」という意味の2つの解釈ができると思う。そのどちらに立つかによって、解答の方向性も変わってくる。現に、扱っている問題集の解答例と某社から出ている入試問題集の解答例とは、見事にこの「true」で解釈しているものと「real」で解釈しているものと2つに分かれているのだ。
 これは面白い問題だと思って、生徒にひとしきり考えさせ、互いに意見を交換させた後で、手を挙げさせてみた。そうすると、使っている問題集の解答例が採用している「true」で解釈した者は数人にとどまり、別の解答例のように「real」で解釈した者は数十人に上った。なるほどね。
 ちなみに、私自身は「real」で解釈した。なぜなら、一般的に「童話」とは小動物などが主人公となり、擬人化された小動物が様々な冒険をする、というパターンが多いが、このエッセイでは現実の蝗が出てきて、それに対して想像力を働かせているのは作者の方であるからだ。
 だからといって、これを「true」と解釈することを間違っているとは思わない。そういう解釈もあり得ると思う。特にこのエッセイの場合、「true」と「real」とを決定づける根拠が文中に記されているかというと、私の見る限り存在しない。それならば、どちらの解釈も成り立つだろう。
 こうした、どちらかよく分からないテーマは、実は国語の授業で扱う問題として非常に適切である。生徒は自分なりの根拠を設定し、それを踏まえて自分の意見を述べるという訓練になるからだ。解答の道すじの決まっている、そして答えるべき問題が自明で、解答も明白な問題など、実は「問題」とも言えない。そんなのは「知的ゲーム」である。本当の(trueの)問題とは、そもそも何が問題なのか分からない問題である。問題がどこにあるのか分からない問題である。そして、その解決法も分からない問題である。世の中にはそうした問題の方が遙かに多い。そして、それに立ち向かい、じっくりと問題に取り組んで解決していくのが「学問」なのだ。あるいは、「人が生きていく」ということそのものだ。
 生徒にはそうした問題に立ち向かって欲しい。解答冊子を見れば答えが分かるような問題など考えるに値しない。真の問題に取り組んで欲しい。特編Bは、そんなことを訴えながら進めていこう。