今年読んだ本

 今年の年間読了冊数は33冊であった。余りの少なさに呆然としている。しかもこの数字は、『1Q84』のように上・下巻になっているものを2巻とカウントしての数字である。まあ、時間の大半を読書に捧げられない身としては仕方がないのかも知れないが、それにしても少ないなぁ。年間100冊が理想だが、せめて50冊は超えたいものだ。
 さて、今年読んだ本の中で心に残っているものを挙げてみよう。
 まずは最近ずっと読み続けている『精霊の守り人』を始とする「守り人」シリーズ。今、第4巻の『虚空の旅人』を読んでいる。感心するのは、その世界観の確かさだ。ファンタジーはこのように全くの想像に過ぎないのに、どんな現実世界よりもずっとリアルにその世界を頭の中に立ち上げてくれる。そこに吹く風を感じさせてくれるのが、ファンタジーの醍醐味である。
 同様に『獣の奏者』1〜4巻も忘れられない。近年の中で最も実り多いファンタジーだ。第4巻のラストにはまだ違和感があるが、それでもあのリアルさは素晴らしいの言葉のみである。昨日、今日とカレンダーを入手するために何と初めて紀伊國屋書店に行った。新潟市内で移転したのだが、3年くらい前だよね。やっと行くことができて、前の店よりもずっと親近感があってよい感じだ。その中でも『獣の奏者』シリーズは大きく取り上げてディスプレイされていた。確かに、本当に多くの人に読まれるべき本だ。
 続いて『日本辺境論』や『街場の教育論』などの内田樹の本だ。どの本も読んでいるこちらの拠って立つ根本をぐらぐらと揺り動かしてくれる快感を味わわせてくれる。
 さらに『世界は分けてもわからない』や『動的平衡』などの福岡伸一の本だ。これは極上のエッセイである。しかもこのエッセイは正確な科学的思考を背景としている。筆者の中で科学と人文学のたぐいまれなるコラボレーションが実現している。福岡伸一の本を読むたびにそれを味わうことができる。
 『銀文字聖書の謎』も素晴らしかった。西洋世界史の中でも古代から中世にかけての歴史、その中で生きた人々、信仰を表明した人々の姿がこれまた今現在生きているように伝えてくれた。
 とどめは『1Q84』である。これを語らずして今年の読書は語れない。賛否両論は様々あろうが、私にとってはこの小説は本当に小説読みの楽しさを満喫できた第一の小説である。村上春樹の筆力はいつでも私を異次元に連れて行ってくれる。しかも村上春樹の特徴は、その異次元が我々の世界とかなり近いところにあることをまざまざと感じさせることにある。この小説はそうした村上春樹の特長が遺憾なく発揮されたものだ。ほんのちょっとしたことで異次元へと入り込む主人公たち。しかし、その異世界こそが真実の世界かも知れない。そうした空恐ろしさを感じさせつつ、物語は圧倒的な力で私を先のページへと運んでくれた。素晴らしい小説だ。