『獣の奏者 IV 完結編』

獣の奏者 (4)完結編

獣の奏者 (4)完結編

 読み終わった。読み終わってしまった。第1巻を読み始めてから約20日余り、ずっとこの壮大なファンタジーの世界とともに自分自身も生きてきたような気がするほど、リアル感のある、素晴らしい物語だった。それが、とうとう終わってしまった。
 衝撃的だった。
 あまりに衝撃的なラストだ。未だにその衝撃から抜けきれない。しばらくはこの衝撃から立ち直れないだろう。
 エリンの2つの願いのうち、「王獣を解き放つ」ということは実現できた。しかし、もう1つの願い「家族3人も解き放たれて暮らす」という願いは……。ある意味、かなったとは言えるだろう。しかし、王獣のために、そして国々の思惑を止めさせるために、アマスルの人々を救うために、そうだとはいえ、何という結末なのだろうか。
 物語の最後近くに出てくるエリンの言葉が印象的だ。

「わからない言葉を、わかろうとする、その気持ちが、きっと、道を開くから……」

 ジェシがこの言葉をずっと心に抱いて生きてきたように、確かにこの言葉は『獣の奏者』という物語全体を貫くテーマなのだと思う。人には慣れない獣の前に立つ、竪琴を持った少女の姿というのが、作者の心に浮かんだ最初のこの物語のイメージだというのだから。
 ここに来て、本のカバー絵の意味がやっとわかった。1〜3巻までは王獣が空を舞う影と、その下にたたずむエリンの姿が描かれていたが、第4巻だけは違う。その意味が、つんと心に迫る。
 素晴らしい物語だった。読んでいた間中、「イアル」だの「セ・ザン」だのといった言葉が自然と頭の中に浮き出てくることが何度もあった。これほど物語世界に没入できたのは久しぶりである。
 子ども向けだと言わず、アニメの原作だと軽視せず、万人に勧めたい。