『世界は分けてもわからない』

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

 福岡伸一氏の最新作。といっても、私のblogで時々言及してきたように、この本の内容は講談社のPR誌『本』に連載されていた同名タイトルの文章をまとめたものである。連載当初から私はこの文章のファンだった。生物の根源と日常の世界との関わり、生命が連続するものであり、静止させても生物の姿を見ることはできないこと、分子生物学の華麗な大発見とその裏に隠された捏造事件の顛末、などなどなどどれもこれもわくわくするような話題が福岡氏の精緻で具象的な文章によって綴られていく。本当に連載が来るのが楽しみだった。
 その文章をまとめて読むことができる。これは読書人の悦楽である。少しずつ、楽しみながら読み続け、本日読了した。非常に魅せられた文章だった。連載で読み忘れた部分も全部続けて読むことができ、これでようやくスペクター事件の一部始終が理解できた。この話が1981年代に起こったというのだから、分子生物学というのは私の理解を超えて進歩していたのだなぁと思う。1981年といえば私が大学生の頃ではないか。そう、福岡氏は私よりも2歳年上なだけである。私が学生の頃に、分子生物学はまさにその盛期を迎えていたのだね。
 この本が現代新書の2,000冊目だというのも興味深いものである。確か1,500冊目が村上陽一郎先生の『科学の現在を問う』であったはずだ。節目節目に私にとって大切な著者たちが著作を残しているねぇ、現代新書。