『ノルウェイの森』

ノルウェイの森(上)

ノルウェイの森(上)

 これも年末年始にかけて少しずつ読み続けていた本である。もう、いったい何回読んだことだろうか。今回は何回目だろう。10回近いか、それを越えているかだね。
 何度読み返しても、この作品が持っている喪失の悲しみは心を打つ。そして、まだこの作品ではラストにおいて回復の兆しは見られるものの、どこへ回復したらよいのか分からない状態でいるのが痛々しい。今回読み進めてみて、レイコさんは直子なのだと思った。特に直子が自殺した後、レイコさんはイコール直子なのだと感じた。直子との共通性が何度も強調されている。
 しかしこの作品のラストにおいて主人公はレイコさんと交わるわけだが、それを自然に思わせる筆力は大したものである。村山由佳の『すべての雲は銀の・・・』もそのようなラストを迎えるが、あれは気持ち悪くて読み進めるのが苦しかった。どう考えてもあのラストを迎えるのは不自然であったからだ。その点、村上春樹の文章はその行為をさほど抵抗感なく受け入れられる。まあ、この小説自体がそうした行為を満載しているので、あの程度のことはどうってことないという気持ちにさせるのかもしれないが。そうだとしても、それはストーリーの勝利である。