『銀文字聖書の謎』

銀文字聖書の謎 (新潮選書)

銀文字聖書の謎 (新潮選書)

 昨年の2月に出た本。その時に買っておいて、最近になって少しずつ読み始め、今日の午後に息子の宿題を見ながら読了。いやぁ、いい本だった。
 3〜4世紀頃に栄えたゴート王国の司教ウルフィラが母国語であるゴート語に聖書を翻訳した(列王記を除いて)。しかし、そもそもゴート語には文字がない。そこで、一部は文字まで作って母国語にギリシヤ語の聖書を翻訳したのだ。それを6世紀頃に羊皮紙の写本が作られ、美しい銀文字で書かれた聖書となって受け継がれ、今ではスウェーデンのウプサラ大学図書館に保管されているという。
 ウルフィラは「神」という言葉を母国語に翻訳するに当たって、ギリシャ語の「テオス」をそのまま使わず、「グス」という言葉で表した。これが、英語で「神=God」という語の源になったという。この「グス」という語は、もともとの「テオス」が「光り輝くこと」という意味であるのに対し、「親しく語りかけるもの」という意味であるという。そのため、「グス」を受け継いだ英語圏、ドイツ語圏の国々は他人との対話を基軸とした民族性を培っていったのに対し、「テオス」(ラテン語では「デウス」)が使われていたラテン語圏では世界を光り輝く存在とする民族性へとつながっていった、という。なかなか魅力的な説である。
 そうした翻訳の面白さだけでなく、東ヨーロッパの様子、またその歴史など、その場にいるかのような臨場感で読む者に伝えてくれる。私はヨーロッパの町並み、それも観光地ではなく、普通の町並みが好きで、日曜夜の「世界街歩き」というNHKの番組を好んで観ている。そんな私の興味を実に満足させてくれる、希有な本である。
 新年早々、いい本に当たったものだ。今年のベスト10の中の、おそらく1つになるだろう。