『マイクロソフトでは出会えなかった天職』

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった

 月曜日頃に読み始め、5日間で読み終えた。私にしては非常に速いペースで読んだ。どんどん先を読みたくなった。そして読み終えるのが惜しかった。そんな非常に素晴らしい本だ。
 著者ジョン・ウッドはマイクロソフトマーケティングで大変な活躍をした人だ。主にアジア・中国で活躍し、ばりばりと仕事をしていたマイクロソフトでの典型的な成功者である。しかし彼が、休暇で訪れたネパールで小学校に連れて行かれ、そこに本がないことに気づいた時から人生が大きく変わる。ネパールの小学校ではそもそも校舎が不足している。そして、図書室はあっても本がない。本はあっても旅行者が置いていった大人向けの本や恋愛小説、古い地図などばかり。しかも本が傷むということで、本の入った棚には鍵がかけられているのだ。その現状を知った著者は自分が幼い頃より本に囲まれ、本を読んで成長してきたことを思い出した。彼とネパールの子どもたちとを分けるのはただ教育資本がないということだけ。その国の人々は貧しいからこそ教育の可能性を確信している。しかし、教育をしようにもお金がないのだ。しかもそのお金は、マイクロソフトで活躍している著者にとってはあまりに低額である。
 そこで彼は本を持ってくることを約束して国に戻り、本の寄付を募ってネパールへ届ける。それを皮切りに著者はマイクロソフトを辞職し、「ルーム・トゥー・リード」というNPO組織を立ち上げて、支援の幅を世界的に広げていくのだ。
 著者のポジティブな姿勢が非常に好感的である。これはまさに、梅田望夫氏の「アントレプレナーシップ」に該当する積極的な姿勢だ。予想される困難よりも前に進むことを重視し、悩むよりも行動することをモットーにして突き進んでいる。その結果は非常に素晴らしいものだ。
 また著者は慈善事業のNPO運営にマイクロソフトで培ったビジネスライクのやり方を応用して成功している。慈善事業では資金集めが必要だし、資金提供者に成果を報告することが必要だ。それを、マイクロソフトで行っていたことと同様に著者は行う。そのことで資金提供者の信頼を勝ち取り、さらに支援事業を進めていけるのだ。まさに副題にある通り、これは「起業」である。慈善NPOを「起業」ととらえて進めていったところに「ルーム・トゥー・リード」の成功があるのだろう。
 一番感動したのは、本書の中に差し込まれている写真の数々である。著者の活動によって本を手にしたアジアの子どもたち。学校ができて喜ぶ子どもたち、女子への奨学金を得て学問を続けることができるようになった女の子たち。それらの子どもたちの顔が圧巻である。みな笑っている。貧困の中で、しかし未来を夢見て笑っている。筆者も言うように、貧困に苦しむ姿は哀れみを誘っても、その人々を蔑むことになる。そうではなく、人々の笑っている姿を見ると、彼らへの尊敬を感じる。彼らは貧困の中でもチャンスを与えられて笑っているのだ。この子どもたちの姿が非常に強烈である。
 いい本だ。今年のベスト10の中に入る、素晴らしい本だ。