素話の授業
今日と来週の授業では「素話」を扱います。素話は絵本の読み聞かせや紙芝居、パネルシアター、ペープサート、エプロンシアターなどと違い、観客である子どもたちの反応がダイレクトに帰ってくる、実にスリリングな活動です。同時に、学生たちにとっては敷居の高いものでもあります。彼らはお話の一言一句を間違いなく覚えなければならない、という強迫観念に囚われています。私は、素話は子供との直接のコミュニケーションを持つことこそが重要であり、原稿の一言一句も変えることなく語ることにさほど重きを置いていません。なにしろこれは「語り」なのであり、「語り」はその場において立ち上がるものこそがその本質だと考えています。よって、私の今回の授業は、学生たちのこの強迫観念というか思い込みを打破することに重点を置きました。
その方法は、何はともあれ私自身が見本となって素話を披露することだと考えました。口でどうのこうの言っても、それを証明できなければ力を持ちません。そこで、今日の授業の初めに、私が素話を披露しました。併設される幼稚園で行われている方法を真似て、教室を薄暗くし、ろうそくを1本火をつけて立てました。もちろんマイクなどは使わず、私自身の声で語ります。そして、やや反則ですが、BGMをかけました。この曲です。
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そして、私が語ったのは村上春樹の「鏡」という短編小説です。
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村上春樹の「鏡」は、高校の教科書にも一時期採用されたことがありました。その時に改めて読んで、とても強い印象を持ったことを覚えています。そして、私のとても好きな話となりました。そこで、これを素話風に私なりにアレンジして、語りました。部屋を暗くして、前にろうそくを灯して、「フーガの技法」をBGMとしてかけながら。なかなか雰囲気が出るでしょ? (^_^)
10分ほどの実演でしたが、どうやら大成功でした。事前に何度も練習しただけあって、本番ではほとんどつかえることなく語ることができました。学生からもとても好評でした。
さて、その後で私の語りの種明かしをします。私はこの話の文面をほとんど覚えていません。私が覚えたのは次のことだけです。
そして、細部の描写を用いてお話の場面をしっかり構成させたら、あとはあらすじに沿って、この場で語る言葉を紡ぎ出して行ったのだ、と教えてやりました。学生たちは驚いていたようでした。何しろ、10分間以上の素話が、原稿を覚えることなしで語っていたというのですから、思い込みを持っている彼らにしては衝撃だったと思います。
これを示した後で、私なりの素話の準備の仕方、お話の覚え方などを説明し、他の素話の例をビデオで示して、素話の理論的な面について説明した後、学生たちに自分で素話の練習をするようにさせました。来週の授業では、彼らがグループの中で素話をし合い、相互評価させることを内容に考えています。
大福帳のふりかえりを読むと、近々に控えている実習で素話をやってみようかと思う、という意見を何人もの学生が書いていました。素話の印象を少しは変えることができたかなと喜んでいます。