『クリエイティブの授業』

クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST

クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST "君がつくるべきもの"をつくれるようになるために

 吉田新一郎さんから勧められた上記の本を読みました。これは面白い! お勧めです。
 原題は『STEAL LIKE AN ARTIST』(アーティストのように盗め!)で、こちらの方が刺激的ですね。また、本書の内容をよく示していると思います。本書は何かを新しく作ろう、書こうと思うけれど、それは「オリジナルでなければならないのでは?」と考えて手が止まってしまう人(主に私?)にうってつけです。
 本の扉には「芸術とは盗むことだ」(パブロ・ピカソ)、「未熟な詩人はまねるが、熟練した詩人は盗む。無能な詩人は盗んだものを壊すが、有能な詩人はより優れたもの、少なくとも違うものへと変える。」(T.S.エリオット)の言葉を掲げ、創造するとは盗むことなのだと教えてくれます。意表を突く言葉ですが、しかし、多くの革新的なアイディアや創造的な仕事とは、そのように他者の今までの仕事やアイディアを参考にし、自分なりに吸収し編集してアウトプットしたものです。人は他に何の関わりもないものを創造することはできません。人は「無から有を創造する」ことはできないのです。創造にはある元ネタがあり、それをいかに自分なりに取り込んで表出するかにあります。スティーブ・ジョブズスタンフォード大学での卒業講演にもあったように、ジョブズMacを構想したのは、彼が大学でタイポグラフィの勉強を(モグリで)したことが基となっています。人生における点と点はいつかつながりをもつようになる、肝心なのはその点を人生の中にもつことだ、ということではないでしょうか。
 この本の中から、面白い!と思った箇所をいくつか抜き出します。

  • 小説家のジョナサン・レセムがこんなことを言っている。「何かを“オリジナル”と呼ぶやつは、十中八九、元ネタを知らないだけなんだ」p15
  • “ネタ帳”を持ち歩こう。その名のとおり、他人から盗んだネタを記録しておくためのファイルだ。……盗みたいものが見つかった? ネタ帳に記録しよう。アイデアの限界? ネタ帳を開こう。p30
  • 作曲家のニック・ロウは言っている。「まずは自分のヒーローの全作品を作りなおそう」と。といっても、1人のヒーローからまるまる盗んじゃいけない。ヒーロー全員から盗むんだ。作家のウィルソン・ミズナーは、「1人の作家をコピーするのは盗作だが、何人もの作家をコピーするのは研究だ」と言ったのを覚えている。かつて、漫画家のゲイリー・パンターがこんなことを言ったのを覚えている。「君がたった1人の影響しか受けていなければ、君は第2の○○と呼ばれるだろう。だが、100人から盗んでしまえば、“君はオリジナルだ!”と言われるのだ」p44
  • 僕たちがアートを作るのは、アートが好きだからだ。僕たちがある作品に惹かれるのは、その作者に刺激を受けるからだ。突き詰めていえば、フィクションはどれも“ファン・フィクション”なんだ。だから、いちばん大事なのは、知っていることじゃなくて、好きなことを書くことだ。自分のいちばん好きなストーリー、自分の読みたいストーリーを書こう。人生や仕事も同じ。筋書きに迷ったときは、こう自問すればいい。「どうすればもっといいストーリーになるか?」p55
  • 今、僕はどの仕事でもこの方法を使っている。僕の仕事場にはデスクが2台ある。1台がアナログ用で、もう1台がデジタル用。……君も試してご覧。オフィスがあるなら、作業スペースを2つに分けるんだ。1つはアナログ用で、もう1つはデジタル用。アナログ・スペースでは、エレクトロニクス類はいっさい禁止だ。1000円持って近所の店の文房具コーナーに行き、紙、ペン、付箋紙を見つくろってこよう。アナログ・スペースに戻ったら、さあ、図工の時間だ。紙に落書きをして、切り貼りしよう。作業中は座っちゃダメだ。紙を壁に貼って、パターンを探す。デスクに広げて、えり分けよう。p68
  • 僕が少ない人生経験で学んだことが1つある。本当にうまく行くのは“副業”のほうだということだ。僕の言う“副業”というのは、今まで気ままにやっていると思っていたこと、単なる遊びでやっていると思っていたことだ。本当に大切なのはそっちだ。魔法が起こるのはそのときなんだ。たくさんの仕事を同時進行させて、気ままに切り替えられるようにしておくといい。こっちの仕事に飽きたら、あっちの仕事へ。あっちに飽きたら、こっちへ。“ぐずぐず”をエネルギーに変えよう。p73

 読んでいて勇気づけられる言葉がポンポンでてきます。ワクワクしてきます。私などは単純ですから、さっそく学校で余っている机を1つ調達して自分の研究室に置き、アナログ用とデジタル用に作業場を分けました。このアナログ・スペースで、これからどんな仕事ができるか、楽しみになってきます。
 この本を読んで、筆者のファンになりました。そこで、筆者の次の著書を入手しました。

クリエイティブを共有!  SHOW YOUR WORK!

クリエイティブを共有! SHOW YOUR WORK! "君がつくり上げるもの"を世界に知ってもらうために

 また、吉田さんは、「PLC便り」というメールマガジンで次の本も勧めておられました。私はさっそく注文しました。
逆転の教育: 理想の学びをデザインする

逆転の教育: 理想の学びをデザインする

 人から本を紹介してもらうのは、良書に出あう有効な方法の一つです。良い読書ができそうです。

『ギヴァー』のブッククラブの授業終了!

 先々週の11月9日(水)、ついに『ギヴァー』のブッククラブの授業が終わりました! 10月から始め、途中にビブリオバトルの授業をはさむというイレギュラーな展開はありましたが、4回にわたってブッククラブの授業を行いました。ブッククラブを自分の授業に取り入れたのはこれが初めてです。どのようにしたら良いのか、なかなか具体的に分からなかったのですが、今夏に自分が経験したことによって、やり方が分かったとともに、その効果も確信できました。そこで、年度初めに予告していたシラバスを変更までして、ブッククラブを取り入れました。結果、大成功だったと言えるでしょう。学生たちがこんなにのめり込んで話し合ってくれるとは、ある程度予想してはいたものの、私の予想以上でした。彼らは次の授業を待ち焦がれるようになり、4回が終わった後も、「またやりたい!」「まだ話したい!」「別の本でもやりたい!」「残りの授業全てがブッククラブでもいい!」(^_^;) という意見をたくさん聞かせてくれました。
 これは『ギヴァー』を選んだことが大きな意味をもっていると思います。『ギヴァー』は、次から次へと謎が生まれてくる物語であり、話し合って解決するものもありますが、新たな謎の登場に、もう人に話したくてたまらなくなる物語です。これを選んだことが成功の第一理由でしょうね。
 学生たちの意見の抜粋です。彼らは実にいろいろな反応してくれているのが分かります。

  • みんながいろいろな疑問を持っていることが分かりました。友だちと話し合い、それらの疑問についても話し合うことができました。班の友だちと、ジョナスの父への不信感など、様々なことが共感できて良かったです。また、新たな疑問も浮かびました。双子が生まれ、体重が同じだった場合の「厄介」とはどういう意味かということです。まだ残る疑問がモヤモヤしてしまいます。終わり方について、最後にジョナスが見た光景がクリスマスの幸せなものであり、飢えていて意識も失いかけていた矢先のことだったため、死の瀬戸際だったのではないかという考えになりました。すごく後を引く終わり方だったので、話し合えてよかったです。
  • ブッククラブの質問一覧を見て、自分の中で疑問が増えてしまうものと「それはこうなんじゃないか?」と考えを共有してみたいものの2つに分かれ、やっぱりもう1度ギヴァーを読み直すべきなのかなと感じました。今日は、とにかく謎が深まってしまう回でした。誰かが一言発すると、「それはあ〜だ。いや違う。」とどんどん話が広がって発展し、結局疑問が増えてしまうという繰り返しになっていました。しかし1冊読み終わって感想や疑問を共有すると、こんなに話が広がるのかと気づけた良い機会になりました。ジョナスとゲイブリエルの最後はどうなるのか。フランダースの犬的な死を迎えるのか、生き残れるのか。記憶をジョナスに与えたギヴァーがコミュニティーに残って何ができるのか。共有の時間にも解決することはできませんでした。
  • 今日の初めに今までのギヴァーの話の質問を見ました。この本は最初から最後まで謎だらけだったなと思います。まだ未解決の謎もたくさんあり、もっともっとみんなで話して自分の中で納得して終わりたいという気持ちに駆られています!!! 最後まで読んで、謎のまま終わってしまったなという感じがしました。考えれば考えるほどわからなくて、ジョナスはコミュニティを出て何がしたかったのかがまだよくわかっていません。こんなに本を読んで悩んだのは初めてで、他の本でも話をしてみたいと思いました。他の班では全く違う疑問が上がって、そう言われればなんでだろうと新たなモヤモヤが生まれました。班の中で映画ではどんな風に描かれるのかみてみたいという話になり、今後見て見たいと思いました。
  • 今までのブッククラブの疑問を整理したものを改めてみると、話の進み方がよくわかりました。自分たちのグループでは出てこなかった面白い疑問もあって、なるほどなと思いました。とにかく話し合いに向いていた本だったなあと思いました。とうとうギヴァーが終わりました。最後まで謎が多くて話し合いも毎回盛り上がって楽しかったです。「最後の終わり方がスッキリしない」という意見が多かったけど、そこも様々な意見が生まれてよかったのではないかと思いました。読めば読むほど考えが深まる本だと思いました。他のグループでジョナスが脱出して、解放?されたのに、ソリの記憶があるのはなぜかという疑問が出て、なるほどなと思いました。記憶が放たれた後のコミュニティも気になりました。
  • 今日の振り返りの時に、多くの人がまたビブリオバトルをしたいと言っていましたが、私も全く同じ意見でした。あの後、また新しい本を読み始めたのですが、みんなに紹介したくてたまりません。ギヴァーの最後のシーンについて中心的に話し合いをしました。私は、小説を読み終わった後に映画も見たので、疑問が少しスッキリした感じがしました。映画も見た方がよりギヴァーの世界観が伝わったので、オススメです。それぞれがまだ自分自身の持っている疑問に対して完全にスッキリしている状態ではなかったです。4部作ということで、続きを読んでみたくなってきました。
  • 前の疑問の振り返りをやったが、今となっては(読み終わってみると)このことはこれ!と解決していたり、これとこれはつながってるんだと思ったり、たくさん発見がありました。まだよくわからないこともあったので、また読みたいです。たくさんつながることがあってびっくりした。私の意見では2人でコミュニティーを出て記憶のあるところに行ったのかなと思った(よそ=記憶のあるところ)。あと、ギヴァーの娘はジョナスの前のレシーバーのローズマリーだったのかもしれないというびっくりしたこともありました。結果的に終わりはよくわからなかったけど、とても面白かった。抜け出したと考えていたから、みんなお意見を聞いて死んでしまったのかもしれないのか、夢だったのか、なるほどと思えることがたくさんあり、不思議だなと思いました。川の謎もなるほど!と思えました。
  • 初めて最後まで読んだ時、「ここで終わりかあ」とついニヤついてしまいました。そしてジョナスの父親がすごく嫌いになりました。いくら子どもが好きだったとしても、このコニュニティには本当の愛情などないのだと思いました。小グループでは、やっぱり2人がどうなってしまったのかという話し合いになりました。歌声や音楽も実際にはなかったのだと思います。父親の言動についても「ひどい」という意見でした。死という概念がもうないのだなと感じました。もしも夢オチだったのであれば、それはそれでいいかなあと思いました。クリスマスの部分は聞いていてすごく納得ができました。ギヴァーの続編もぜひ読んでみたいです。
  • 他のグループで色がないとその国にいいことは?と話していたグループがいくつかあったと聞いて、確かに気になるなと思った。色がないと人種差別が起きず、戦争にもつながらないという意見に、このグループの人は深い話し合いをしていてレベルが高いなと感心しました。私たちも疑問だけではなく、このようなまた一歩上のレベルの話し合いができるといいなと思った。ついにギヴァー最終回が終わってしまいました。こんなにしっかりとした恋愛系以外の小説は久しぶりでした。終わってみて少し寂しい気持ちになりました。この本の中では何と言っても解放が死という意味を表していたことに衝撃を受けました。お父さんが双子の片方を「ばいばいでちゅねー」って注射針を刺して殺して捨てたのは残酷でした。お父さんに怖すぎて鳥肌が立ちました。それを見たジョナスの気持ちの考えたらかわいそうでなりません。他の班で、その後のコミュニティに様子が気になる、他のコミュニティに入っても、なぜジョナスはソリの記憶を持ち続けられたのかという意見に確かになぜだろうと疑問に思いました。この本は話し合えば話し合うほど疑問が生まれて、とても興味深かったです。この本をぜひ色々な人にオススメしたいです、まずは本好きな父に勧めたいと思います。
  • 先生は全てをわかっているものだと思ってしまっていましたが、自分たちと同じように謎に思うことがあるのだと気付きました。今日は今までよりたくさんのことをしゃべることができました。ギヴァーの終わり方があっさりしすぎていて、そのあとのことがとても気になりました。みんなに気づいているところが自分たちの話し合いに出てなくて、その考えもあるのか!!と驚きました。

 授業では、ミニレッスンとして今までの3回の授業で学生たちが挙げた質問を列挙して、彼らに示しました。そして、いくつかの質問は解決し、いくつかの質問はまだ残っていることを話しました。最後の学生の「先生は全てをわかっているものだと思ってしまっていました」とはそのことを指して言っています。私は、この授業を通して、「小説を読む」ということがどういうことなのかを少しは理解させることができたかな、と満足です。小説を読むとは、決して教師から答えを教えてもらうことではなく、教師も学生もなく、皆ともに作品に反応していくことなのだということです。
 RWの授業は、新潟市内のある中学校の先生方がご自分の授業の中で挑戦しています。これも、とても素敵な実践となっています。いずれご紹介したいと思います。

『ギヴァー』第13章〜第18章への反応

 先週11月26日、『ギヴァー』のブッククラブの授業の3回目を行いました。この回は、本文の第13章〜第18章を範囲とし、学生同士で自由に話し合わせています。そのふりかえりの一部から『ギヴァー』に関して触れている部分を引用します。

  • まず、今度双子が生まれるから、1人を解放しないといけないという内容について、どうして双子はだめなのか、と疑問に思いました。また、リリーにゾウの記憶を伝えようとしてもだめだったのに、ゲイブには楽しい記憶を伝えることができたので、ゲイブには記憶を受け取る力があって、この先の展開で重要なことにつながっていくのでは? と思いました。ゲイブに記憶を伝えてしまったということをギヴァーに知らせなくてよかったのか?という他グループの意見に対し、なるほどと思いました。話し合いとしては、読んでいない人もいて特定の人が話している状態だったので、次は皆が読んでくると面白いと思います。
  • 話し合いの中で周りの人に痛みがわかってもらえないことは辛い、など共感することがたくさんありました。ローズマリーをギヴァーは愛していたところで、恋ではなく、親が子に対しての愛情なんだと話し合いました。今日は、初めて、話し合いの中で意見を言えることができました。そこから話をだんだん展開することができ、とても良い話し合いでした。
  • このギヴァーの世界には愛という感情がないということで、それはどんな世界なのだろうと思いました。愛以外でもいろんな感情がなくて、ジョナスたちは何を思って生きていたのだろうと不思議に思いました。楽しくなさそうな世界だなと思いました。ジョナスは1人で痛みの経験や辛いことの経験をしていて、それでも、そのことは誰にも言えずに、辛いんだろうなと思いました。今回もみんなの意見を聞くことで話し合いが広がっていき楽しかったです。
  • これは、本を全く読まない私にとってとても理解するのに時間がかかるし、理解することができないところもありますが、読んでいく中で少しずつではあるが、本の内容を理解することができてきている気がしました。色のない、愛のない、そんな世界で、何が楽しくて生きているのかとても不思議に感じました。DVDではどう表現されているんだろう…? やはり、皆と話す中で「愛のない世界」ってどういうことなのだろう、と話し合いました。愛を知っているのはジョナスで、その周りの人たちは知らない。ジョナスは愛を知ることがいいことだと思うのか、知りたくなかったのか、どっちなのだろう…。
  • 解放とよそというのは違うのか、一緒なのかという疑問がありました。私のイメージだと、解放=死、よそ=違う国? なのかなと思いました。次の章からそれがわかるのかな?と思うと楽しみです。今日は、一人一人疑問や感想を言ってから、その人の意見について話しました。とても楽しかったです。
  • ギヴァーの中の世界がだんだんと分かるようになってきて、改めて、自由に生きることができないコミュニティだなと、思いました。確かに、安心・安全であり、争いごともないところはよいと思いましたが、機械的で嫌だなと思いました。今回は、ギヴァーの世界のことがよく分かるようになったため、それぞれ思ったことをたくさん話しました。けれども、やはり疑問はたくさんあったのでモヤモヤしました。物語の結末を早く話し合いたいと思いました。
  • あまり本を読まないのですが、『ギヴァー』は本当に毎回毎回続きが気になって、早く先を読みたくてうずうずしてしまうほど、ハマってしまいました。今日帰ったら、残りを読み切りたいと思っています。読書って一人で楽しむもの、と思っていましたが、同じ本を他の人たちと共有し話すことで、何倍も楽しめるんだなあと感じました。毎回ブッククラブが楽しみです! ずっとブッククラブがいいなあって思います。
  • 今日の授業では、自分の分からないところや、理解しきれなかったところをグループのメンバーがすごく分かりやすく教えてくれて、本当に助かりました。思わず、なるほどね! って感じになって、その疑問が解決したことで分かることが増えてよかったです。個人活動にも書いたように、共有の時間があってよかったと思う時間でした。今回の時間のように、次のギヴァーは最後の回なので、少しでもよい話し合いができるよう、しっかりと準備したいです。
  • 今日は、愛のことについてたくさん話をしました。ジョナスがフィオナに愛情を感じてしまっていて、大変なことなのではないかという話が出て、配偶者は決められてしまうのにジョナスはどうするのか気になりました。また、その気持ちを持ってしまったのは、薬をやめたせいだという意見が出ました。みんな、ジョナスが記憶を受け継いで、痛みを感じてもそれを他の人に分かってもらえないのは辛いといっていて、私もそう思いました。いろんな意見が出て、共感もできてよかったです。

 彼らのふりかえりを読んでいると、毎回、このリーディング・ワークショップの授業を始めてよかったな、と思います。高校までの12年間の学校教育を経て、未だに読書を苦手に感じる学生が一定数いるのです。私にとって、この発見はこの授業を行って得た大きなものの一つです。そして何より嬉しいのは、そうした学生たちが皆揃って、この授業を受けることで読書の面白さを少しずつでも味わうことができていることです。4番目や7番目の学生にとって、読書とは今まではそういうものだったのでしょう。しかし、この授業を通して、また今年はブッククラブの実践を通して、彼らも読書の楽しみを実際に味わっていることが本当に嬉しいです。
 また、このブッククラブの授業の中で、私は「優れた読み手が用いている方法」を何一つ教えていないにもかかわらず、学生たちが『ギヴァー』について話し合う中で自然にそれらの方法を用いていることも注目されます。私が3回の授業のミニレッスンで取り上げたのは次の内容です。

  1. よい話し合いをするための方法
  2. 本の読み方
  3. ビブリオバトルのやり方

 私がミニレッスンで心がけているのは、ブッククラブにおける学生たちの話し合いがスムーズに進むために役立つものを提供する、ということだけです。私がこれまでの授業でやっていることは、とにもかくにも学生たちの話し合いをいかによく進ませるか、ということです。「優れた読み手が用いている方法」は一度も紹介していません。でも、それも当然なのです。これらの方法のいくつかは、学生たちが無意識のうちにすでに用いているものもあります。『読む力はこうしてつける』では8つの方法が紹介されています。その8つ全てを用いる学生はなかなか出てこないけれども、そのうちの「質問する」「比較する」「何がくるか予測する」「推測する」などは通常の読書でも使っているものです。ブッククラブではこれらの方法の使用がさらに促進されている様子がうかがえます。
 これを実証的に、統計的にしっかりと計測したら面白そうですね。今回の授業の収穫として、期待できそうです。

「読む力」はこうしてつける

「読む力」はこうしてつける

学園祭でした

 29日・30日は本学の学園祭「青空祭」でした。
 大学の学園祭は、高校の教員だった私からすると、何とも拍子抜けのするものです。高校教師だったとき、文化祭はもちろん「出勤日」です。金・土にかけて行われることが多かったですが、土曜日の分は休日出勤であり、振替休日がありました。また、クラス担任だったときは、クラスの出し物を手伝ったりサポートしたりすることが多かったです。もちろん、生徒の自主性を重んじるよう行動しました。それでも教員の負担はかなりのものでした。
 この点、大学の学園祭は基本的に「学生のもの」です。担当となる教職員は違うでしょうが、私のようにゼミでの出店のサポートをする以外に特にすることはありません。学生が主体的に運営し、実施します。また、そうでなければなりませんね。ゼミの出店も、基本は彼らに任せきりにします。そうでないと自分たちで運営し、実施し、トラブルがあれば解決を図り、考えるという「実地」の経験を積むことはできません。あることを計画し、それを遂行しようとする経験を積ませるのは何よりも大事です。学園祭はこうした経験を積ませるのに最適です。
 今年も、私のゼミ生たちは頑張ってくれました。両日とも模擬店を開き、豚汁とおにぎりを販売しました。天候も味方してくれたのか、売れ行きは上々でした。用意した食材のほとんど全てを使い切り、完売できたのは良かったです。何よりも、この活動を通してゼミ生たちの親睦・協力体制が深まったのが嬉しかったです。特に今年は、1年生も協力を要請し、活動に加えることができたのがよかったと思います。
 この間、私はといえば、様々なトラブルに対してさすがに無視しているわけにも行かず、例年よりも手出しをしてしまいました。私としてはそれがちょっと残念ですね。しかし、必要なことだったと考えています。今日はさっそくゼミの時間があり、学生たちは前日までの忙しさのせいか、やや呆然としていた顔つきをしていました。しかし、当日は十分に達成感を感じていたようで、良かったと思います。
 これで学園祭も終わりました。ゼミ活動としては、いよいよ各自の研究活動に邁進することになります。彼らが決めたテーマに沿って、どんな研究・実践を行い、それをどのようにまとめてくれるか、楽しみにしています。
f:id:beulah:20161031182309j:plain

『ギヴァー』第7章〜第12章への反応

 先週の19日(水)に『ギヴァー』のRWの授業を行いました。私は授業の終わりに毎回ふりかえりを書かせています。そして、そのふりかえりからの抜粋を授業の初めに学生に配布し、友人たちが先週の授業で何を感じ、何を学んだのかを知るようにしています。
 先週は『ギヴァー』の第7章〜第12章を範囲としてブッククラブを行わせました。ストーリーはいよいよ佳境に入ってきます。ジョナスが「レシーヴァー」に任命され、先代のレシーヴァー=「ギヴァー」から雪の記憶などを受け取る場面が出てきます。「〈同一化〉」や「天候制御」などの言葉が出てきて、このコミュニティの異常さがいよいよ明らかになってきます。
 学生たちは特に、リンゴに起こった「変化」、すなわち「赤」という色の認識という点について強く反応したようです。以下に、ふりかえりの抜粋で、『ギヴァー』について言及している箇所を載せます。

  • やっぱり一番話題になったのはリンゴでした。また、目の色が明るい色の人がレシーバーになるのではないかという話が出ました。ゲイブリエルは明るい目をしているが、12歳になるときジョナスはまだ24歳なので明るい目をしていたとしてもレシーバーにはならないのだろうという結果になりました。/ リンゴの色でもともとこの世界は白黒のような色彩がないのか、色彩はあるがみんな認識していないのかという意見があり、私も同じことが気になっていたので嬉しかったです。
  • 共有の時間では、「色」についての話題が多かったです。物語の中では雪を知らないですが、食べ物などを食べるときなどのように感じてるのだろうと思いました。メンバーの中で共感できる部分が多くて楽しかったです。
  • 今回はジョナスたちは色を知っているのかということに疑問を持ちました。「赤」という色を知っていなかったし、最後に「虹の記憶を与えよう」と書かれていたので、色のない世界で生きているのだと私は思いました。/ みんな今回は色について疑問を持っていたので、同じ話題を共有できて良かったです。私があまり深く考えていないところもみんなからいろいろ聞くことができたのでとても考えさせられました。
  • ギヴァーの中の世界観はとても不思議だからこそ、読んでいて一人一人感じることや考えることがたくさんあると改めて思いました。今日は実習の人がいて少ない人数の中での話し合いでより他の人の意見を詳しく聞けました。/ 前に出ていた人で、話し合っていることをメモしたりしている人がいて、すごいと思いました。また新たな疑問が出てきたので、読むのが楽しみです。
  • 今日のグループに4人のグループで1人が1つ疑問に思ったことや自分の考えを伝えると、他の3人がそれについて自分の考えを言い、1人では思いつかなかった考えを知ることができました。話し合いをすると、余計に今後の展開が気になります。早くこの先も読んでみたいです。/ グループ内でまとまった考えを言い合ってみると気づいたこと、気づかなかったことの共有ができ面白かったです。今回の7〜12章だけでなく前回の章の内容も含めて考えていたのでとても参考になりました。
  • 私は今回の章を読んで、「前回のレシーヴァーは失敗した」「前回は辛いものからはじめたから」とあったのですが、それは平和なコミュニティから排除されている「戦争」「人殺し」などそういった悲しみ記憶のことなのではと思います。/ 前回の共有時より、みんなの間の謎が多かったです。これから、読み進めていくのがまた楽しみです。また次回もみんなで楽しく本について語らいたいです。
  • 今日は実習でいなかった子もいたけど、前よりも充実した話し合いになった気がします。一人一人の意見も聞けたし、共感する部分も多くありました。次回も実習で人数が少なくなるけど良い話し合いをしたいです。/ みんなも同じところを疑問に思っていたとわかることができてよかったです。私たちのグループでは出なかった意見を聞けて良かったです。
  • 先週よりも、話し合いが活発で、さらに楽しかったです。このコミュニティの人たちはどのように作られたのだろう、どの時代を境に色がなくなってしまったのだろうと、たくさんの話が出ました。/ 大きなグループの中で、2つに分かれているので、もう1つのグループの話を聞くのがすごく面白かったです。太陽の光がなくてどうして植物が育つのかという話は私もとても不思議でした。
  • 第2回目、7〜12章までで、ついにギヴァーとなったジョナスですが、記憶を受け継ぐとき、記憶を体感として受け継ぐ、追体験のように行っていて、日焼けでも痛みを感じていたようなので病気や戦争、人殺しなどの記憶をもし受け継ぐことになったとしたら…と考えると、“今まで味わったことのない痛み”の意味が分かるような気がしました。/ ジョナスが“赤”という色識を認識したことから、このコミュニティには世界はモノクロに映っているのか、という話になり、モノクロの世界のことや、天気制御されていると食べ物はどうなのかなど考えていたので、そこまで深く考えてめぐらせているのはすごいと思った。

 「/」の前は『ギヴァー』について小グループで話し合った内容について、「/」の後は共有の時間で中グループで共有し合った結果について書かせたものです。
 いかに彼らが「色」について反応しているかということが分かります。それは、そのことを自分たちが想像することが難しいことの表れでもあるでしょう。しかし、ブッククラブでは、こうした一人では難しいこともみんなで話し合うことで深く考えることができるのだなと思いました。誰もが不思議に思うこと、しかしすぐに答えの見いだせないこと、それをみんなで話し合うことの良さを強く感じます。そして、それは話し合う者たちの思考力を鍛え、促すのだなと思いました。
 また、今回は一部の学生が実習に行っているため、前々回よりも少人数のグループで話し合ったものが多いようです。そして、その方が話し合いが濃くなる様子もうかがえます。普段、彼らは5,6人で話し合いをしています。それではやはり多すぎるのだなと思います。3,4人くらい(最大4人)が良いスケールなのではないでしょうか。
 学生の反応を見ていると、いろいろのことを気づかせてくれます。毎回、楽しみな授業です。

学園祭への準備

 本学では今週末、29日(土)と30日(日)の2日間、学園祭(青空祭)が行われます。今年も我が峰本ゼミは模擬店を出店すべく、準備を進めています。学生たちにいろいろ話し合わせた結果、なぜか昨年と同じく「おにぎり+豚汁」を売ることになりました。なかなか渋い選択だなと思いましたが、昨年はかなりの勢いで売れて、無事完売しました。今年もそうなるだろうと思います。他のゼミで、ご飯系の模擬店はそんなに多くはないのです。どうしてもスイーツ系に偏っているので、我々のメニュー選択は間違っていないと思います。
 いよいよ今週末だということで、学生たちの準備も大詰めのはずなのですが、今年はなかなか手こずっているようです。学友会の意向とのすりあわせや必要物品の準備など、解決しなければならない問題は次から次へと湧き起こっているようです。学生たちの様子を見るとやや殺気立ってはいるものの、話し合いでは常にユーモアを忘れずに話をしています。こうでなくてはなと思います。私はその話し合いの場にいて、ニコニコして聞いているだけです。アドバイスを求められればしますが、基本は聞いているだけ。だって、学生たちのゼミですから。彼らが自分たちで解決し、盛り上げていかなければ面白くもないでしょう。
 というわけで、私は何にも心配しません。前日に買い出しなどで手伝いはするものの、後は全部学生たちに任せようと思います。つまりは、私もゼミのメンバーの一人として、できることをやるだけです。私が主導することは決してしません。それは、ゼミ活動とは対極にあることです。
 考えてみると、こうした模擬店出店のための準備の苦労は、本当に買ってでもせよ、と言いたいところです。学生たちは正直言えば、まだ子どもです(年齢的にも)。2年生は、この時期になれば実に多くの経験を積んでいます。すでに5回の実習を経験し、また園と交渉して自主実習を行ったりしています。しかし、一つのレクリエーション活動を最初から最後まで企画・準備・実施する経験はまだそれほど多くありません。こうした経験は、来春になって保育の現場に立とうとする彼らにとって、買ってでもしておきたいものです。その意味で、今回の模擬店出店はとてもいい経験になるでしょう。前回のゼミ旅行が良い経験の一つになったように。これらは、ただ楽しんだことだけが意味をもつのではありません。こうした企画をし、準備し、失敗し、対策を練り、やり遂げるという経験が何より大事です。保育の現場に、つまりは教育の現場に立つ人間には、そうした経験がとてもとても大事です。学生時代に良〜く経験させたいものです。
 さあ、楽しみだな〜。今年はどうなるのかな。私も両日とも少し顔を出して、学生たちの作るものを買い求めようと思っています。

ファシリテーション・グラフィックのスキル向上のために

 私が担当している1年生の授業「言葉指導法I」では、「子どもの言葉の発達と援助」と題して、人が生まれてから幼児期に至るまでの期間に言葉がどのように発達していくかを講じています。人が言葉を獲得していく過程はなかなかにスリリングです。言葉など全く話すことも使うこともできなかった存在が、様々な資質を用い、外部の環境と応答していくことによって、言葉を獲得していきます。そのスリリングな様を、学生と一緒に体験している真っ最中です。
 しかし、90分の授業の全部をその探究に向けていては、いくら興味深い内容といえどもお腹がいっぱいになってしまいます。そこで授業の後半(およそ40分間くらい)は、今日話をした内容を踏まえた課題を出し、それについての対処法を学生同士でグループを組んで話し合わせています。昨年まではこの話し合いの際に、オピニオン・ペーパーを使ったり、単純に話し合わせたりしていましたが、今年は最初からファシリテーション・グラフィックをやらせています。3〜6人のグループを組ませ、1グループに模造紙を1枚ずつとマーカーセットを1つずつ渡し、一人がマーカーを1本持つようにします。そして、設定した課題について話し合い、出てきたアイデアや自分の意見、他人の意見を模造紙に自分で書き込ませます。ややメンバーチェンジのないワールドカフェのようなやり方ですね。
 これまでの経験からすると、このファシリテーション・グラフィックをさせても、なかなか模造紙1枚を埋めるほどのメモを残すことができないでいました。しかし、今年の1年生はほぼどのグループも模造紙全体を埋めるほどのメモを書き出します。さすがに入学前教育でワールドカフェを経験している世代だなぁと思ったりします。
f:id:beulah:20161020154054j:plain
 今日は、その2回目だったのですが、学生たちは喜んで模造紙にメモを書き込み、話をしていました。今日は時間的な余裕が少しあったので、10分程度話し合った後で意見をまとめさせ、それを3〜4グループに発表させました。良い意見、やや的の外れた意見などが出され、私のコメントのしがいがありました。
 ファシリテーション・グラフィックは一つのスキルです。決して魔法の杖ではありません。これを使えば意見交流が(ない時よりは)活発化します。しかし、1度使ってすぐに効果が現れるわけでもないでしょう。スキルなのですから、熟練が必要です。そのためには何度も何度も試してみて、成功や失敗の経験を重ねて、徐々に身につけさせていくほかはありません。昨年までの授業では、多くてせいぜい2〜3回しか学生に経験させていませんでした。今年は3回目の授業ですでに2回経験させています。なるべく多くの機会に経験させて、スキルを上げさせていこうと思っています。